橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

太田和彦『ひとり旅ひとり酒』

太田和彦の最新著。『西の旅』という旅行雑誌での連載をまとめたとのことで、金沢、境港、和歌山、広島、松江、長崎、高知など、西日本の地方都市を飲み歩くという趣向。編集者とカメラマンが同行しているはずだから、ひとり旅というのはちょっと違うと思うが、ひとり旅らしい雰囲気は感じられる。
歴史や文学、建築についての雑学的知識がちりばめられるところ、居酒屋だけでなく珈琲店とバーにも立ち寄るところなど、いつもの太田流。焦点深度を浅くした写真が、いい雰囲気を出している。住所・電話番号などのデータと地図も完備。手元にあると、西日本へ出張などするときに重宝しそうだ。この著者の居酒屋紀行に親しんできた者にとっては、やや新鮮みを欠く部分もないではない。しかし、東京の居酒屋についての本は読んだが、地方編はまだという人には、まずはこの一冊がよさそうだ。

ひとり旅ひとり酒

ひとり旅ひとり酒