橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

端田晶『とりあえず、ビール!』

先日読んだ『もっと美味しくビールが飲みたい!』の続編が、これ。今年七月の刊行である。軽妙で飾らない文章、嫌みのない博識は、ますます快調だ。印象に残った話題をいくつか紹介しよう。
太宰治に「禁酒の心」という短編があるとは知らなかった。酒が配給制になってから、人間が酒に卑屈になったのを嘆いて禁酒するというお話。これは、ぜひ読まなければ。アルコール発酵を伴わない果実酒・リキュール類も、作ると酒類製造行為になる。したがって、他人への譲渡は違法だった。しかし、これでは料理店や旅館が自家製の果実酒を出すのも違法になる。このばかばかしい税制は二〇〇八年に改正されたとのこと。民主党政権には、ぜひ酒税法の抜本改正をしてほしいものである。日本で初めてビールを飲んだのは杉田玄白、という説がある。いろいろな本で紹介されているが、著者によるとこれは、玄白の『阿蘭医事問答』と『阿蘭陀問答』を混同したことによる誤りとのこと。確かめずに書いたりしたら、恥をかくところだった。
飲みながらでも読める、楽しい本である。

とりあえず、ビール! <続・酒と酒場の耳学問> (講談社文庫)

とりあえず、ビール! <続・酒と酒場の耳学問> (講談社文庫)