橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

鈴木琢磨『今夜も赤ちょうちん』

毎日新聞の名物記者、鈴木琢磨の名コラム「今夜も赤ちょうちん」が、ついに単行本になった。版元は、なぜか毎日新聞社ではなく、あまり聞いたことのない出版社。毎日新聞夕刊での連載は約一五〇回だったが、精選して七八本、これに「呑んべえ列伝」と題して一三人の著名人を取り上げたインタビューと回想録が収録されている。
ほんのスパイス程度に文明批評・社会批評を織り込みながら、居酒屋と人について語っていく熟練の語り口はさすが。インタビューと回想録がまたおもしろい。暉峻康隆の辛辣な文明批評。日本をこよなく愛したサイデンステッカーの、現代日本への怒り。都はるみの、何とチャーミングなことか。それをあくまで「呑んべえ列伝」の枠にまとめていく手際も良い。
私の「居酒屋考現学」とは毛色が違うが、「社会派居酒屋論」という点では、けっこう近い。出てくる居酒屋は、ちょっと触れられた程度のものまで含めると一〇〇軒近くになるだろうか。どちらかといえば無名店が多いが、行ってみたくなる店ばかりだ。住所や地図などは載っていないが、だいたいの場所は記されているから、調べれば分かるはずである。

今夜も赤ちょうちん

今夜も赤ちょうちん