橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

三軒茶屋・なかみち街

classingkenji2008-10-24

何日か家でおとなしく仕事をし、そのまま家で食事をしていたのだが、居酒屋欲求が抑えきれず、今日は三軒茶屋へ。行きたい店があったので、まずは「なかみち街」へ。行きたかった店というのは、ブラボー川上藤木TDCの『続・東京裏路地〈懐〉食紀行』に載っていた店。なかみち街からちょっと横に入ったところの、これまで二度ほど通ったものの、結局どこにも入らずにいた居酒屋通りにある、「T」というやきとり屋である。ヤミ市探検隊の二人が、いかにも目をつけそうな店で、雰囲気は私も嫌いではない。
しかし、中身がこれでは……。ホッピーは三八〇円。これ自体は普通の値段なのだが、グラスに氷と焼酎を入れ、さらにボトルからホッピーを注いだ飲みきりの値段である。お代わりすれば、当然二倍。名物という一五〇円の鰻串焼き二本、八〇円と壁に書かれた焼きとんを四本、それにホッピーを三杯いただく。味について、とやかく言うつもりはない。で、お勘定はなぜか二五二〇円。なぜ?可能性として考えられるのは、(1)卵とスナックエンドウのお通しが七六〇円。これは、ありそうにない。(2)ホッピーを一杯よけいにつけられ、その上、やきとんは一〇〇円に値上がりしている。付け出しは三〇〇円。これがいちばんありそうだ。客は、私ひとりだけ。店主は話し好きで、いろいろ話しかけてくる。これはいいのだが、しつこく職業を聞いてくるのには閉口した。カウンター一列だけの店だが、カウンターの表面には食べ物の滓が付着して、手に粘着する。
この本は、前作と同様、たいへん面白い。私もヤミ市探検は大好きなので、大いに参考にさせてもらおうと思っている。出てくる店をみても、いずれも探検欲と食欲をそそられる店ばかり。ただし、居酒屋ガイドではないので、時にはこんな店もあるかもしれない、ということだ。(2008.10.21)

まぼろし闇市へ、ふたたび 続東京裏路地「懐」食紀行

まぼろし闇市へ、ふたたび 続東京裏路地「懐」食紀行