橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「戎参」の生ホッピー:ホッピーよお前もか

classingkenji2008-10-27

三軒茶屋の二軒目は、仲見世商店街の「戎参」へ。前回も書いたが、この店は「精肉店がモツ焼きもはじめたところ、近所の人に好評で、どんどん売り場を広げていってやきとり屋になった」というコンセプトで演出された店。メインの酒が生ホッピーというところがうれしい。ところが。
生ホッピーが大幅値上げである。前回は四二〇円だったが、なんと四九〇円に。値上がり率一六・七%。ホッピーが値上げされたことは、居酒屋ブログ界でもあちこちで話題になっているが、これほどの大幅値上げは多くないと思う。あるブログには、「噂」と断った上で、リターナブル瓶で二〇円、樽は二〇〇〇円の値上げという情報があった。いずれも、十数%の値上げと思われる。ホッピー社からの文書には、「輸入モルトの直近相場は二倍以上、輸入ホップは三倍近くまで高騰」とある。さて、この値上げ幅はリーズナブルなのか。
ビールの六三三ミリリットル入り大瓶一本には、麦芽が七〇グラム、ホップが一グラム使われている。業務用の麦芽とホップの価格はわからないが、自家醸造用品を扱うある店の価格から計算すると、それぞれ二八円、七・五円となる。三六〇ミリリットル入りリターナブル瓶のホッピーに使われている原材料がこの半分だとすると、それぞれ一四円と三・七円である。値上げ率がホッピー社のアナウンスの通りだとすると、値上がり前はそれぞれ七円、一・三円だったということになり、値上げ幅は九・四円である。ただし、この価格は自家醸造用の高級品を素人が小さいロットで小売業者から買う価格だから、ホッピー社はこの半値程度で仕入れていると考えていい。したがって、原材料の高騰分は五円程度ではないか。
しかもホッピー社はここ数年間、急速に売り上げを伸ばしているのだから、人件費を含めて製造コストは下がっているはず。それにしては、この値上げ幅は大きすぎる。実際、ビールの値上げ幅は三−五%程度だった。輸入原料を使った食品は値上げが続いているが、ホッピーの今回の値上げは、便乗値上げといわれてもしかたがあるまい。愛する会社だけに、こんなことはいいたくないのだが、独占企業ゆえの行ないとしか思えない。ホッピー社よ、謙虚であれ。下町酒場の多くは、簡単に値上げできる状況にはない。いつまでも庶民の味方でいてほしいものである。(2008.10.21)