橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

森下賢一『居酒屋礼讃』

かつて毎日新聞社から出版された単行本に、大幅加筆して文庫化された。原著は、今日では花盛りの各種居酒屋本の元祖とでもいうべきもので、私も大いに参考にさせていただいている。とくに、客の社会的構成を服装から読み解くという手法は、ここから着想を得ている。さらに本書は、酒と居酒屋の歴史や、文学史の中の酒と居酒屋にも多くのページを割き、とくに俳句に関する部分は、今日まで他の追随を許さない。東京のすぐれた居酒屋を紹介した部分は、新たに取材して修正と追加がされていて、ガイドブックとしても役立つ。膨大な内容だけに、十分アップデートできていない部分もないではないが、ここまでやってくれれば文句はない。居酒屋好き必携である。なお、解説は「居酒屋礼賛」の浜田信郎氏。

居酒屋礼讃 (ちくま文庫)

居酒屋礼讃 (ちくま文庫)