橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2008-01-01から1年間の記事一覧

「トロ函」新宿思い出横丁店

久しぶりの新宿、もうひとつの驚きはこれ。なんと、旧やきとり横丁の南側、第二宝来家の隣に「トロ函」ができている。新小岩、赤羽に次いで三店目。メニューは基本的に同じで、焼物をテーブル上で焼いて食べさせるところも、またホッピー、天羽ハイボール、…

「消えた」やきとり横丁

久しぶりに、新宿西口へ。驚いた。西口の北側、小田急ハルク向かい側線路際の飲食店街は、線路に面した通りが「やきとり横丁」、その一本西側が「思い出横丁」のはずだったのだが、両方とも「思い出横丁」になっている。たしかに、この名前の方がしっくりく…

豪徳寺「祭邑」

日本に帰ってから、まず最初にしたことは、近所のなじみの店を一通り回ることだった。 店の人と親しく話すような店には、三ヶ月いなくなることを伝えておいた。しかし、常連とはいえそれほど親しくない店には、伝えていない。だから、一度顔を出して安心させ…

「たつみ」

今日は、久しぶりに下高井戸の「たつみ」へ。これは、知られざる名店である。拙著『居酒屋ほろ酔い考現学』でも、次のように紹介させていただいた次第。「江戸から出発する街道のひとつ目にあたる宿場町は、旅人たちが旅の始まりを祝し、また旅の終わりに名…

「酔顔眺めて格差知る」

明日九月二四日、NHK教育テレビの「視点・論点」に出演します。テーマは、「酔顔ながめて格差知る」。拙著『居酒屋ほろ酔い考現学』の第九章の内容を中心に、一〇分間お話しします。ご笑覧ください。午後一〇時五〇分から一一時まで。再放送は、NHK総…

「大志満」

今日は、妻がヨーロッパ滞在で不在の間にお世話になった人を招いての接待で、銀座へ。私もお供でご相伴にあずかろうというわけである。向かったのは、加賀料理の「大志満」。この店は、新宿、高輪、横浜などにもあるチェーン店で、水準の高い加賀料理を食べ…

スタグフレーション?

三ヶ月ぶりに日本に帰ってみると、いろいろなものが値上がりしている。パン、麺、ジュース、マグロなど。景気は悪化しているはずなのに、この値上がりはつらい。 ときどき行くやきとり屋も、値上がりしていた。レバ、ハツ、カシラは一〇〇円から一二〇円、タ…

阿佐ヶ谷「吟雅」

二軒目は、選りすぐりの純米酒を絶妙の燗で飲ませてくれる「吟雅」。ワインもあるが、今日は当然、久しぶりに日本酒を楽しむこととし、秋鹿・特別純米や、諏訪泉・純米吟醸などをいただく。ご主人はソムリエと唎酒師の資格を持つ酒のプロだが、料理にも研究…

阿佐ヶ谷「四文屋」

今日は、久しぶりに大学へ行き、たまった郵便物や配布物の整理をし、手紙やメールをいくつか書いた後、バスと中央線を乗り継いで阿佐ヶ谷へ。まず入ったのは、この店。チェーン店にもかかわらず、個人営業の老舗のような仕上がりのモツ焼とモツ煮込みを食べ…

灯串坊で飲む「おこげ」

帰国した日、最初に飲みに行く店はどこにしようか。これがなかなか難しい。三ヶ月のご無沙汰だから、刺身は外せない。しかし、もつ焼きも外せない。ところが、刺身ともつ焼きを高いレベルで両立させる店は少ない。少なくとも、家の近所にはない。かといって…

欧州で日本の居酒屋文化を思う

毎日新聞社のPR誌『本の時間』9月号に、著書紹介を兼ねてエッセイを書きました。転載しておきます。 欧州で日本の居酒屋文化を思う この六月に、毎日新聞社から『居酒屋ほろ酔い考現学』を出版させていただいた。何冊目になっても、自分の本が出版されるのは…

パリ「ビュイッソン・アルダン」

旅行をはさみながら2ヶ月に及んだパリ滞在も、今日で終わり。最後の夜は、アパルトマンのすぐ近くのレストランへ。 ミシュランガイドの東京版が、粗雑な作りでまったく信頼できないものであることについては、すでに多くの指摘があり、私も別のところで指摘…

ザルツブルク「スティーグル・ブロイ」

ザルツブルク音楽祭では、ウェルザー・メスト指揮のクリーブランド管弦楽団と、サロネン指揮のウィーン・フィルのコンサートを聴いた。市内観光も含めて全部で3泊し、市内のいくつかのレストランで食事をしたが、そのうちのひとつがここ。スティーグルStiegl…

ウィーン「ジーベン・シュテルン・ブロイ」

ザルツブルク音楽祭のついでに、ウイーンに立ち寄る。フランスがワインの国であるのに対して、ドイツは、ラインやモーゼルに良いワインがあるとはいうものの、基本的にはビールの国。それではオーストリアはどうかというと、ビールとワインの重みがほぼ同等…

アウグスティーナー・ブロイのヴァイス・ブルスト

ミュンヘンに着いた日の正午過ぎ、あるビアケラーに入って名物のヴァイス・ブルスト(白ソーセージ)を注文しようとしたところ、白ソーセージは正午までしか出さないとのこと。わずか15分ほどの差で食べ損ねた。そこで日を改め、今度は別の店で注文。場所は、…

帰国しました

今日、日本に帰ってきました。ようやく荷物の整理のめどがついたところです。さて、これからどこへ飲みに行きましょうか。最初は刺身、その後はもつ焼きといきたいですね。 まだ数日は、ヨーロッパの記事が続きますが、その後は日本の居酒屋の話に戻る予定で…

ミュンヘン「ホフブロイハウス」

ミュンヘンは、世界最大のビールの聖地。以前から行ってみたいとは思っていたが、今回、ザルツブルク音楽祭への行き帰りに立ち寄ることができた。日本風には「ビアホール」ということになるが、ビアケラーと呼ばれるビール店のなかでいちばん有名なのは、ご…

エクルヴィスの造り

マンガ「美味しんぼ」は、近年ではすっかりマンネリ化してしまっているとはいうものの、料理に関心を持ち始めた院生時代は、いろいろ学ばせてもらった。その頃に出てきて、はじめて知った食材のひとつにエクルヴィス、つまりザリガニがある。日本では滅多に…

ハギス

アイラ島からグラスゴー経由でエジンバラへ。エジンバラ国際フェスティバルでコンサートを聴くのが主目的だが、もちろんパブめぐりも忘れるはずはない。 スコットランドのパブ料理といえば、有名なのはハギス。これは、羊の内臓のミンチをオートミール、タマ…

アイラ島「ロッホサイド・ホテル」

今回の1泊2日の滞在では、見学して試飲をした蒸留所が4ヶ所(ボウモア、ラフロイグ、カオリラ、ブナハーベン)、外観をみて売店に立ち寄っただけの蒸留所が2ヶ所(アードベッグ、ラガブーリン)、そして休業のためちょっとのぞいただけの蒸留所が2ヶ所(キルコー…

キルコーマン・ファーム・ディスティラリー

アイラ島でいちばん新しい蒸留所。なにしろ、創業は2005年である。実際にはいろいろ困難があって、まだ実現していないようだが、自家農場で生産した大麦を蒸留所でフロアモルティングし、燻蒸して仕込むという、100%自家生産を目指しているとのこと。だから…

カオリラ・ディスティラリー

CAOL ILAと書いて、カオリラと発音する。アイラ海峡という意味のゲール語で、アイラ島とユラ島の間の狭い海峡のこと。この海峡に面して建っているのが、この蒸留所。蒸留所の前の岸辺に立つと、向こう側には頂上が雲に隠れたユラ島の山々。すばらしい環境で…

ラフロイグ・ディスティラリー

昼食の後、アイラ島南部へ。最南端に近いポートエレンの近くには、アードベッグ、ラガブーリン、ラフロイグという3つの蒸留所がある(ちなみに、以前はポートエレンという蒸留所もあったが、現在は閉鎖されて精麦所だけが操業している)。アードベッグとラガブ…

ボウモア・ディスティラリー

パリから飛行機でグラスゴーへ飛び、一泊したあと小型機でアイラ島へ。地図で見ると、130キロくらいしか離れていないようで、飛行時間はせいぜい30分ほど。アイラ島最大の産業は、アイレイウイスキーの製造である。関連産業を含めると、約3000人の島民の約半…

街角のココレッチ

お昼ごろイスタンブールの街角を歩いていて、店頭でココレッチを焼いている店を見つけた。羊の腸を棒にぐるぐると巻きつけて焼いている。どこかで読んだ話では、棒には別の内臓が刺さっていて、このまわりに腸を巻き付けるのだとか。昼食は、これをパンには…

イスタンブール「メルカン・カフェテリア」

イスタンブールは、トプカプ宮殿などのある旧市街、オフィスビルや商店街などがある新市街、船でボスポラス海峡を渡ったアジア側の三つの部分に分けられる。旧市街と新市街は橋でつながれていて、路面電車や徒歩で行き来することができる。新市街の中心はイ…

トルコのエフェス・ビール

トルコのビールといえば、大部分がこのブランド。普及品のビール、黒ビールなど何種類かがあるが、いちばん日本のビールに近いのは、このピルゼンビール。樽生の状態のものも出回っていて、観光客がいるようなレストランの多くはこれを置いている。値段は幅…

トルコ料理の魅力

トルコ料理の代表格といえば、まずはシシ・ケバブ、ドゥネル・ケバブなど、肉を焼いた料理だろう。しかし、これと並んであげたいのは、野菜を使った前菜である。たとえば、焼きナスをヨーグルトと和えたナスのサラダ、トマトやキュウリなどの野菜を細かく刻…

イスタンブールは猫の街

3泊4日の予定で、イスタンブールへ。パリからは、飛行機で3時間半くらいである。空港は、トルコ建国の父であるケマル・パシャの敬称をとってアタトュルク空港といい、ここからメトロに乗って30分ほどで中心部に着く。メトロと路面電車は1.4トルコリラ(約140…

パリ「ラヴァン・グー」

実は、パリではあまり外食していない。日本の安居酒屋のようなものがなく、外食は高くつくうえに、近くの肉屋やスーパーで、いい食材と安いワインがいくらでも手に入るので、いつも自分で作ってしまうのである。しかしこの日は、知人と待ち合わせてレストラ…