橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

パリ「ビュイッソン・アルダン」

classingkenji2008-09-11

旅行をはさみながら2ヶ月に及んだパリ滞在も、今日で終わり。最後の夜は、アパルトマンのすぐ近くのレストランへ。
ミシュランガイドの東京版が、粗雑な作りでまったく信頼できないものであることについては、すでに多くの指摘があり、私も別のところで指摘したことがある。しかしパリのミシュランガイドは、信頼できるという声が多い。さすがに歴史の蓄積があり、また情報収集のためにつねに膨大な労力が払われているからだろう。滞在中、いわゆる星付きレストランには一度も行かなかったが、「星なしレストラン」には何度か行った。東京版は接待級のレストランのみしか掲載していないのに対して、パリのミシュランガイドは料金の高い星付きレストラン以外に、星ではなくコストパフォーマンスを示す別の記号がついた、安くておいしいレストランを数多く掲載しているのである。実際に行ってみると、たしかに安くておいしい。パリのレストラン事情に疎い私でも、この情報が信頼性の高いものであることは、よく分かった。今日行ったのは、アパルトマンから歩いて数分のところの星なしレストランである。
メニューは前菜が10ユーロ、メインが19ユーロ、デザートが7.5ユーロで、3つのコースは32ユーロ(約5000円)。それぞれ5-7種類から選ぶことができる。私が選んだのは、まず前菜に「豚肉と子羊胸腺のコンフィと豆の煮込み・フォアグラ添え」(ただし、標準より3ユーロ高)。肉と豆の滋味に、とろけるようなファアグラのコクと舌触りが絶妙。メインは「子牛の頭肉のキャラメリゼ」。私の好きな頭肉をとろけるように煮込み、バニラ風味の衣をつけて焼くという手の込んだ逸品。そしてデザートはワインの友にもなる「ゴルゴンゾーラチーズのテリーヌ」。ゴルゴンゾーラにナッツやドライフルーツを練り込んだもの。いずれもすばらしい出来だった。これにアペリティフシャンパーニュ、白ワインのカラフェ、そしてオート・コート・ド・ニュイの赤ワインをボトルで飲んで、2人で2万円ほど。もちろん安いとはいえないが、日本のレストランで食べることを考えると、たいへんリーズナブル。こうして、ちょっとだけぜいたくなディナーで、ヨーロッパ生活をしめくくったのだった。地下鉄のJussieu駅を降りてすぐ。ホームページもある。(2008.9.5)

Le Buisson Ardent
25 rue Jussieu, Paris 5e
http://www.lebuissonardent.fr/