橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

ボウモア・ディスティラリー

classingkenji2008-08-21

パリから飛行機でグラスゴーへ飛び、一泊したあと小型機でアイラ島へ。地図で見ると、130キロくらいしか離れていないようで、飛行時間はせいぜい30分ほど。アイラ島最大の産業は、アイレイウイスキーの製造である。関連産業を含めると、約3000人の島民の約半数が、アイレイウイスキーにかかわっているとのこと。アイレイウイスキーは、独特の強烈な個性をもち、通常のピート香にヨード香と潮の香りとが加わるのが特徴。これは、海草と苔が堆積してできたピート(泥炭)に由来する。島内には8つの蒸留所があるが、空港にいちばん近く、便利な場所にあるのがこのボウモア蒸留所である。ボウモアはというのは、島でただひとつ商店街といえる規模の通りがある街の名前だが、この名を冠するブランドは、日本ではもっとも知られたアイレイウイスキーだろう。現在はサントリーの所有で、見学ツアーの最初にみせられたプロモーションビデオは、美しい風土と職人芸を強調した、まさにサントリーテイストのよくできた作品だった。蒸留所の設備は近代的で、たとえばマッシュタンは、一見すると木製のようにもみえるが、実は内部がステンレス製で、動力で攪拌羽根が回っている。また蒸留工程では、ポットスチルの各部分からサンプルが自動的に抽出されるようになっている。温度は、コントロールパネルで集中管理。こうした設備は、規模の違いはあるものの、後でみた各蒸留所とも共通だった。蒸留所の歴史を記した展示パネルがあったが、サントリーに買収されたことには触れられていない。日本企業の所有というのは、イメージダウンになりかねないからか。そして最後は、おきまりの試飲。ボウモアは、良くも悪しくも中庸を行くアイレイで、品のいい香りが特徴。アイレイの個性ははっきり感じられるものの、強すぎず万人向け。日本でも、普通の酒屋で容易に手に入る。(2008.8.13)