橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

灯串坊で飲む「おこげ」

classingkenji2008-09-16

帰国した日、最初に飲みに行く店はどこにしようか。これがなかなか難しい。三ヶ月のご無沙汰だから、刺身は外せない。しかし、もつ焼きも外せない。ところが、刺身ともつ焼きを高いレベルで両立させる店は少ない。少なくとも、家の近所にはない。かといって、疲労と時差ぼけの体で遠出はしたくない。というわけで、自然に近所で梯子酒ということになる。
一軒目は、経堂駅南口そばの、駅ビルの地下にある「赤堤」。とくに特徴のある居酒屋ではないが、世田谷の駅前にしては安く、品数は少ないものの、うまい刺身を出す。気っぷの良い女将さんがいて、客のことをよく覚えている。ボトルが残っているかどうか、どの銘柄だったかなど、こちらは記憶が定かではないというのに、ちゃんと覚えている。まずは枝豆と刺身を二点、そしてバイ貝の酒蒸し、薩摩揚げを食べ、生ビール二杯、瓶ビール二本、さらに焼酎のボトルを入れて、八〇〇〇円を切るお会計。ちなみに、ビールは中生、大瓶とも四八〇円。結構広い店で、アルバイトも複数雇っているのに、これで儲かるのかと心配になってくる。
二軒目は、当然のように「灯串坊」。家の近所では、いちばん行く回数の多いおなじみの店である。三ヶ月留守にすることは伝えておいたのだが、ちゃんと覚えてくれていて、入るなり「あ、お帰りなさい」と迎えてくれる。いつものようにもつ焼きと灯串坊サラダ(千切りにした大根、キュウリ、にんじんに、やはり千切りにしたジャガイモをカリカリに揚げたものをトッピングした和風サラダ)を注文し、焼酎のボトルを入れてもらう。新しく入ったというこの麦焼酎は、大分は老松酒造の「おこげ」。焙煎した麦の香ばしい香りを強調した焼酎といえば「兼八」が有名だが、これを模したというべきか、同じジャンルの焼酎としてつくられた新製品。味のバランスという点では「兼八」に一日の長があるものの、フレッシュな香味という点では、こちらの方が上かもしれない。ロックにして飲めば、もつ焼きによく合う。楽天でもいくつかの店で売られていて、プレミアなしで手に入るのがうれしい。写真の皿に載っているのは、左からタン、カシラ、シロで、いずれも塩焼き。見た目通り、端正な山の手風モツ焼である。(2008.9.6)[rakuten:sakakiya:830286:detail]

灯串坊(とうせんぼう)
世田谷区経堂2-8-8
17:00〜1:00 水休