橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

カオリラ・ディスティラリー

classingkenji2008-08-23

CAOL ILAと書いて、カオリラと発音する。アイラ海峡という意味のゲール語で、アイラ島とユラ島の間の狭い海峡のこと。この海峡に面して建っているのが、この蒸留所。蒸留所の前の岸辺に立つと、向こう側には頂上が雲に隠れたユラ島の山々。すばらしい環境である。カオリラという酒は、これまで名前も聞いたことがなかったが、大きな近代的工場で、マッシュタンやポットスチルなど、これまでみた中ではいちばん大きかった。聞いたことがなかったのにはわけがあって、実は生産された原酒の95%が、ジョニーウォーカーブレンドされているとのこと。カオリラの名前で流通するようになったのは、最近のことらしい。案内してくれた女性も、「もったいないことだ」といっていた。有名ブレンドウイスキーのなかには、熟成感やまろやかさはともかくとして、ウイスキーらしい風味という点ではハイランドの一部のシングルモルトより強い性格をもつものが少なくないが、その秘密はアイレイモルトにあるということだろう。最後にはカスクストレングスを試飲したが、ラフロイグなどのように強くはないもののしっかりしたキャラクターがあり、果物のような香りがある。日本でも売られているようなので、帰ったら買ってゆっくり楽しんでみたい。(2008.8.14)