橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

ハギス

classingkenji2008-09-03

アイラ島からグラスゴー経由でエジンバラへ。エジンバラ国際フェスティバルでコンサートを聴くのが主目的だが、もちろんパブめぐりも忘れるはずはない。
スコットランドのパブ料理といえば、有名なのはハギス。これは、羊の内臓のミンチをオートミール、タマネギのみじん切り、スパイス、ハーブとともに羊の胃袋に詰めて煮込んだもので、スコットランド名物であるとともに、「イギリス料理は不味い」という定説の有力な根拠としてあげられることの多い料理でもある。しかし、ようするにモツ料理の一種だから、食べないわけにはいかない。これを食べたのは、1516年創業で、エジンバラで一番古いパブだという「ザ・ホワイト・ハート・イン」。ほぐしてそぼろ状になったハギスに、マッシュポテト、やはりゆでてマッシュしたターニップ(ニンジンとカブの中間のような根菜)が添えられて出てきた。別の店では、型に入れて成形した品のいい一皿として出てきたが、この店のものは見かけも素朴そのもの。ハーブが強めで、臭みはほとんど感じず、内臓肉の濃厚なうまみが広がる。不味く作ろうと思えばいくらでも可能な料理だと思うが、少なくとも私が食べたものはたいへん美味しかった。スコットランド・エールとの相性も抜群。醤油や味噌、生姜を使って、和風にアレンジすることも可能なはず。誰かやってみませんか。物価が高いと評判の英国だが、スコットランドイングランドほどではなく、この一皿も一人では食べきれないほどの量で6.95ポンド(1450円)だった。スコットランドへ行く機会があったら、ぜったい食べてみるべきだ。(2008.8.16)

The White Hart Inn
34 Grassmarket, Edinburgh EH1 2HS