橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2007-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ゴールデン街

敗戦のわずか五日後の一九四五年八月二〇日、関東尾津組親分の尾津喜之助は「光は新宿より」をキャッチフレーズに新宿マーケットを開いた。場所は新宿東口、三越と駅の間の大通り沿いである。これに先立って八月一八日には、商品を買い取る旨の広告が都内の…

アメ横「やきとり文楽」

アメ横もヤミ市からうまれた商店街。その名前は、下谷引揚者更正会という引揚者団体が、飴屋を開いたことに始まるが、後には米軍の横流し物資や密輸品を多く扱ったことから「アメリカ横町」という意味も帯びることになった。現在でも店の中心は食料品と輸入…

「ふくろ」美久仁小路店

ひかり町の消滅を惜しみながら、美久仁小路へ。古い飲食店街の向こうにサンシャイン60がそびえ立つこの風景については、すでに多くの方が論じておられる。佃島の町並みと高層マンションの組み合わせなどと並んで、都市の変貌と階層性を見事に可視化した光景…

消えたひかり町通

池袋東口にあったヤミ市酒場の移転先の中で、いちばん駅から近いのが、ひかり町通である。行ったことはなくても、サンシャイン60階通りの左側、居酒屋のマスターやママの似顔絵が描かれたゲートをくぐって入っていく細い路地だといえば、「ああ、あれか」と…

池袋のヤミ市

敗戦直後、池袋には大規模なヤミ市が形成された。現在、池袋東口には大きな広場があるが、ここがヤミ市だった場所。名前を「池袋連鎖市場」といい、店舗数は約二八〇軒、そのうち五五%が飲食店で、さらにその八割が飲み屋だったという。そのヤミ市のようす…

「宝来家」

新宿やきとり横町の老舗。入ったのは、これが三回目くらいだと思う。この店の創業者、金子正巳さんに『やきとり屋行進曲──西新宿物語』という著書がある。九死に一生を得て中国から復員し、妻子を養うため新宿西口のヤミ市でやきとり屋を始めてから、一九八…

亀有「江戸っ子」「加賀廣」

千代田線に乗って亀有へ。ここは、学生時代に六年間ほど住んだ場所である。貧乏学生のくせに本だけはたくさん持っていたので、本棚がいくつも置ける広い板の間があって、家賃の安いアパートを探した結果、必然的にここに落ち着いたというわけである。駅前は…

萬歳楽「夢のしずく」

日本屈指の銘酒「菊姫」と同じ石川県鶴来町(現・白山市鶴来)にある小堀酒造は、「萬歳楽」という酒銘でたくさんの種類の酒を造っているが、その最高峰がこの「夢のしずく」。低温で五〇日間も発酵させた大吟醸生貯蔵酒で、口に含むとサラサラと口中に溶け込…

米投資ファンドがサッポロ買収?

スティール・パートナーズが、サッポロホールディングス株を825円で保有比率66.6%まで買い増したいと、同社に提案したことが報道されています。790円前後の値を付けていたこの株を、買収にしては低い水準でTOB提案したところに、スティールの意図は見え…

「ふくろ」

池袋西口の、駅と東京芸術劇場に挟まれたあたりにあるこの店については、いろいろな本やサイトで取り上げられているから、ご存じの人も多いだろう。何か珍しい酒があるわけではなく、凝った料理もない普通の大衆酒場だが、朝七時からやっていて、いつも賑わ…

ブラボー川上・藤木TDC『東京裏路地〈懐〉食紀行』

これは、面白かった。私とほぼ同年代の不良中年二人が、闇市の雰囲気を残す都心の飲食店街、同じような雰囲気を持つ場末の飲食店を食べ飲み歩くという趣向で、東京に残る闇市文化をよく伝えている。考えてみれば、闇市の飲食店はわずかな資源を最大限に動員…

中野「仲野」「角打山ちゃん」

仕事のあと、バスで中野へ。距離的には高円寺とほぼ同じだと思うが、道が複雑な分、少し時間がかかる。まずは、前から行ってみたいと思っていた新仲見世商店街へ。中野ブロードウェイの裏手にあるこの商店街は、昭和三〇年代の雰囲気を今に残す貴重な場所で…

佐々木道雄『焼肉の文化史』

これは、かなり衝撃的な本である。焼肉や焼とん、ホルモン料理の由来などについての俗説を精緻に検討し、その大部分を否定・修正している。たとえば、ホルモンは「放るもん」から来たとか、モツ焼きはヤミ市で韓国・朝鮮人が始めたとか、プルコギは韓国焼肉…

高円寺「つきのや」

大学からバスで高円寺へ。高円寺のガード下は、なかなかディープな飲み屋街で、個性の強い店が多い。今日入ったのは、魚料理中心の店「つきのや」。外観からして、変わっている。看板の字体が、やけにレトロ。ガード下に一段高くなった場所があり、ここが店…

江古田「四文屋」

以前中野店を紹介した、「四文屋」の江古田店である。メニューも値段も、ほぼ同じ。チレ(脾臓)やナンコツ刺などというマイナーなメニューなると、まったく同じかどうか、確信はないが。この店は、駅の裏の細い通りから、線路側に少し入った、いかにも入りに…

松平誠『ヤミ市 幻のガイドブック』

著者は都市の祭の研究で知られるが、この本は豊島区郷土資料館と江戸東京博物館から、ヤミ市についての提示の企画を依頼されたことを契機に始めた研究を、一般向けにまとめたものである。これがなぜ「酒の本」か。ヤミ市のかなりの部分が飲食店だったから、…

一〇〇〇〇カウント御礼

アクセスカウントが一万を超えました。こんなに多くの方に、来ていただけるとは思っていませんでした。ありがとうございます。これからも、肝臓君と相談しながら、居酒屋から日本の社会を観察していきます。今後とも、よろしくお願いいたします。

「鳥たけ」「たつみ」

今日は大学で仕事の後、下高井戸へ。まず、前から気になっていた「鳥たけ」へ。何が気になっていたかというと、焼鳥屋でありながらメニューに刺身があるらしいのが見えたから。座ってまず、ホッピーを注文したところ、「氷は入れますか」とのこと。「入れな…