橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

高円寺「つきのや」

classingkenji2007-02-06

大学からバスで高円寺へ。高円寺のガード下は、なかなかディープな飲み屋街で、個性の強い店が多い。今日入ったのは、魚料理中心の店「つきのや」。外観からして、変わっている。看板の字体が、やけにレトロ。ガード下に一段高くなった場所があり、ここが店の範囲内ということになっているようだが、ここは透明なビニールで覆われているだけで、中が丸見え。ところがその中にさらに一段高くなった場所があり、ここはちゃんと壁で囲われている。つまり店が二重構造になっている。この構造は、同じ高円寺の「大将」なんかとも共通だ。今日は内側が満員のようなので、外側に席を取る。椅子には電気毛布が載せられていて、よかったら、膝にかけてくださいとのこと。今日は暖かかったが、ちょっと膝の調子が悪いので、使うことにして、ビールを注文。サッポロビールで、生が四五〇円、ラガーの中瓶が五五〇円。「ブリと牡蠣がおすすめ」とのことだったので、ブリ刺しを注文。分厚く、色もいいが、味はまあ普通。五五〇円だから、コストパフォーマンスは悪くない。次にシジミの醤油漬けを注文。三五〇円。台湾料理のようなものを想像していたら、数ミリ程度の小さなシジミが完全に殻の開いた状態で出てきた。確かに味付けは台湾風だが、食べにくいこと。酒は高知の「南」と新潟の萬寿鏡がある。焼酎も数種類。
内側の客層は、薄暗くてよく分からなかったが、カジュアル姿の中年男性中心のようだ。外にいたのは、二〇代の若者、男性二人と女性一人の三人組。お互いの貧乏生活を披露し合っている。マヨネーズは買うと高いので作っているとか、ドレッシングも作ったとか、アパートの隣のベランダに鳩が群がっていて、モデルガンで撃ってやったのに「何だよ」というような顔をされたとか、上の階が朝になるといつもガーガー機械の音がしてうるさいとか。そんな時代もあったな、と懐かしく聞いていた。
すぐ近くには「四文屋」の高円寺店もある。今日は、焼酎一杯と串焼き三本、それにレバ刺し一本だけにしておく。人材募集の張り紙があり、社員は二四万五千円、アルバイトは九五〇円とのこと。この店、どこへ行っても若者がよく働いているのに感心するのだが、どういう人事システムなのか。バイトで実績を上げると社員に登用され、さらには店を持たされるというような感じだろうか。男性店員二人は、いずれも筋骨隆々としていて、腕のたくましいこと。重労働に耐えて働いていることがよく分かる。(2007.2.6)

*その後、阿佐谷へ移転したそうです。