橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「鳥たけ」「たつみ」

classingkenji2007-02-02

今日は大学で仕事の後、下高井戸へ。まず、前から気になっていた「鳥たけ」へ。何が気になっていたかというと、焼鳥屋でありながらメニューに刺身があるらしいのが見えたから。座ってまず、ホッピーを注文したところ、「氷は入れますか」とのこと。「入れないで」と答えると、しばらくしてちゃんと冷えた、いわゆる「三冷」らしいホッピーが運ばれてきた。うまい。スーパードライなんか飲むんだったら、こっちの方が遙かにうまいと思うのだが。焼鳥はだいたいが二〇〇円。一見すると高いが、肉の量は普通の二−三倍ある。ハツと首肉を一本ずつ注文したが、ハツはかなり大形の地鶏と思われる大きなものが四羽分ほど、首肉は二羽分が串に刺されている。臭みがなく、焼き方もよく、美味しい。刺身は、鯛、アイナメ、金目、トロ、ブリなどが五八〇円。金目を注文したが、これが大当たり。旬だということもあるが、脂が乗りきった腹側で、その味は伊豆稲取の本場で食べたものを凌駕する。ビール大瓶(サッポロ黒ラベル)五八〇円、中生は五三〇円、ホッピーは四三〇円、サワー類は三九〇円。
客は、近所の若者たち、日大の学生・教職員、仕事帰りのサラリーマンなど。カウンターの隣には、毛糸の帽子をかぶり、Tシャツとセーターをうまく組み合わせたおしゃれな女の子二人組。スーツにネクタイ姿の六〇代二人、カジュアルの五〇代一人の三人組は日大の先生らしく、「教授会でこけたらどうするつもりだ」などと学内情勢の分析に興じている。スーツにネクタイ姿の四〇代男性と、カジュアルだがぎりぎり仕事着に入るかなという服装の二〇代男性と女性。学生らしい男性二人と女性二人のグループ。五〇代三人、三〇代一人、二〇代二人の、スーツにネクタイ姿のサラリーマン集団。そして、酔っぱらってサラリーマンに話しかけているカラフルな上着を着た五〇代男性。二階では宴会をやっていたらしく、学生たちがたくさん降りてくる。客層の広さが、地元の人々に愛される店であることを物語る。
二軒目は「たつみ」。下高井戸には「たつみや」という有名なたい焼きの店があるが、経営は同じ。この居酒屋は下高井戸に二軒あるが、大きくて新しい方の店は以前行ったことがあるので、今日はたい焼き屋のそばの古い方へ。ここもいい店だ。モルツの大瓶とエビスの中瓶が四九〇円、ホッピーは三九五円、サワー類は二九五円と三三五円。日本酒と焼酎が豊富でしかも安く、東光正宗、〆張鶴立山浦霞、久保田などがいずれも四七五円で、越乃寒梅は六一〇円。焼酎は五〇種類ほどある。料理も安く、カンパチやシマアジの刺身が四九五円、シメサバやイワシ、コハダは三九五円。私の食べた鯨の脂身刺四九五円は、口に入れた瞬間は歯ごたえがあり、やがてとろける味わい。今日は空いていて、スーツにネクタイ姿男性とブランド物をきた女性の五〇代カップル、セーターにジャンパーというラフな格好の五〇代男性三人組(一人は野球帽)、スーツにネクタイ姿の六〇代男性二人組。
下高井戸は、いい居酒屋が多い。それも、居酒屋ガイドで取り上げられる一歩手前でとどまっているようなところがあり、地元客に愛されながら元気にやっているところがいい。知られざる、居酒屋の名所である。(2007.2.1)