橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

中野坂上「平田屋」

classingkenji2009-06-15

大学から帰宅するとき、ふだんは大江戸線で新宿まで行き、小田急線に乗り換えるのだが、今日はふと思い立って途中の中野坂上で降りてみる。どこかいい居酒屋でもと思ったのだが、山手通りと青梅街道の交差点はすっかり開発されて、ほとんど新宿高層ビル街の延長みたいになっている。これでは望み薄かと思いつつ、西側に少し歩き、路地に入ったところで見つけたのが、この店。
入ると大きなL字型カウンターがあり、その手前と奥にテーブル席。奥はかなり広そうだ。最近流行りのレトロ風味のインテリアだが、変な看板をごてごて貼るようなわざとらしさが少ないのがいい。メニューは、モツ煮込みと串カツがメインで、煮込みは三八〇円、串カツは八八円からと安い。酒はビールや焼酎の他、「下町系」と称してホッピー(三八〇円、中一八〇円)、下町ハイボール(三八〇円)、デンキブラン(三八〇円)、トリス(三八〇円)などを置く。ハイボールは、何か混ぜているのか、天羽乃梅だけのものより微妙に色が濃いが、味はほぼ同じ。ここで途中下車すれば、ハイボールが飲めると分かったのは収穫だ。串かつは普通の味だが、レバカツの大きいのには驚いた。
客は、若者が多い。カジュアルな感じの少人数のグループと、近くのオフィスから連れ立ってくる若手サラリーマンとOLのグループなど。カウンターには、オジサンの二人連れなども。下町大衆酒場の模倣ながら、入りやすいエントランスで、路地にとけ込んでいるところが良く、この路地の店ではいちばん繁盛しているようだ。(2009.6.9)

中野区本町2-50-13