橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

曳舟「三祐酒場 八広店」

classingkenji2008-11-11

京成曳舟から歩いて三分ほど、明治通りに面して「キラキラ橘商店街」の入り口がある。この界隈は、東京大空襲で奇跡的に焼け残った場所で、戦前からの古い商店と民家が、ところどころに残っている。映画「下町の太陽」では、主人公の町子(倍賞千恵子)が家族と一緒に住む長屋が、この商店街から横の路地に入ったところにあった。もちろん、家の周辺や室内での撮影はセットで行なわれているが、同じような長屋は、まだいくつか残っている。
残念ながら、この商店街にはこれといった居酒屋がない。ちょっと気を引かれるもつ焼き屋が一軒あるが、テーブル席ばかりの店内が、近所の人で満員になっていることが多く、まだ入ったことがない。しかし商店街の入り口の、明治通りを渡った向かい側に、いい居酒屋がある。それが、この「三祐酒場 八広店」である。
飲み物は、何といっても「元祖焼酎ハイボール」(三五〇円)。この店は、下町風ハイボールを考案したといわれる店の系列店。出来合いのシロップを使ったハイボールは、やや薬臭さを感じることがあるが、この店のハイボールは、すっきりした自然な味。成分は不明だが、不思議に美味しい。料理も工夫されていて、アスパラ肉巻五香粉風味揚げ(五五〇円)など、ハイボールに合いそうな創作料理がいろいろある。ボリュームがあって、しかも安い。
長いカウンターと、奥のテーブル席だけ。全部で十五人ほど入れるだろうか。一人でも入りやすい下町の名店である。商店街を散歩してから、どうぞ。(2008.11.4)

墨田区八広2丁目2-12
17:00-26:00 毎月1・11・21・31休