橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

鐘ヶ淵「大吉」

classingkenji2008-04-18

東武線の鐘ヶ淵駅は、北千住から南へ三駅目のところ。かつては鐘淵紡績、後のカネボウの大工場があり、このあたりではもっとも栄えた場所だった。隅田川べりの工場の跡地には、今は団地が建っている。この駅と、南の京成線八広駅の間は、下町酒場好きの間では有名な「煮込みストリート」「酎ハイストリート」で、数多くの古い大衆酒場がある。今日は、鐘ヶ淵駅のそばのこの店に寄ってみた。のれんをくぐって中に入ると、左側に長いカウンターが一本。二〇人くらいは座れそうだ。ハイボール(三〇〇円)を注文すると、出てきたのは薄黄色で、少し白濁したもの。見かけはレモンハイだが、飲むと下町ハイボールの味とレモンの香りがする。天羽乃梅とレモンをブレンドしたもののようだが、自然な味でたいへん美味しい。カシラとシロを注文すると「タレですか」と聞かれる。こちらがこの店のスタンダードらしいので、「はい」と答えると、女将さんが道路に面した焼き場へ。まもなく焼き上がってきたのは、間に少しだけ長ネギが挟まった、適度に焦げた色つやのいい一品。濃いめのタレを控えめに絡めた具合もよく、たいへん美味しい。これで、一本九〇円。ビール大瓶は五〇〇円。客は仕事帰りの中高年男性が多いが、夫婦や親子連れの姿も。作業服姿、機械油の汚れがついたジャンパー姿など、工場が点在するこの地域らしいところもある。北千住と浅草のちょうど中間あたりだから、ついでに足を伸ばすのもよさそう。(2008.4.9)

墨田区墨田4-9-21
日休