橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

武蔵小杉「くろちゃん」

classingkenji2009-08-10

武蔵小杉が人気、なのだそうである。工場跡地で大規模な再開発が行なわれており、交通の便はよく、しかもJR横須賀線の新駅も予定されている。広尾からは日比谷線経由で簡単に行けるし、帰りは南武線経由で簡単に行けるから単に帰れるから、集中講義二日目の今日は、ここで飲むことにする。
この駅に降り立ったのは、おそらく初めてだ。古い商店街と、工事がまだ続く超高層マンションの対比が、いかにも人工的な風景である。北側の商店街は、今のところ再開発で変わったという印象がない。飲食店の並ぶセンターロードなど、いかにも庶民的な昭和の雰囲気。私好みの店がたくさんある。まずは、「やきとりの店」と看板に掲げる、この店に入ってみる。
店はかなり広く、左側がカウンター、右側にテーブルがたくさん並んでいる。テーブル席に、脂ぎった顔の男の写真がみえると思ったら、民主党のチラシだった。居酒屋にチラシを置くとは、民主党もなかなかしたたかである。私の『居酒屋ほろ酔い考現学』を読んでくれた人には理解していただけると思うが、大衆酒場に来るような客を捕まえようという狙いは、非常に正しいと思う。
もつ焼きは、タン、ハツ、カシラ、ナンコツ、シロ、レバ、コブクロ、ネギマとあり、いずれも九〇円。刺身が何種類かあり、ハマチ七〇〇円、サンマ六〇〇円、イワシ四〇〇円など。安いもつ焼きとリーズナブルな刺身となると、ますます私好みの店である。ビールはサッポロで、大生八五〇円、中生五三〇円、大瓶五三〇円。酎ハイ類は三五〇円。下町価格とまではいかないが、十分安い。塩でいただいたカシラは、塩加減焼き加減ともよく、タレでいただいたシロは柔らかく、タレとのハーモニーもいい。イワシの刺身は普通の出来だが、四〇〇円は安い。
客層は、多様である。古くからの地元住民らしい、ちょっと古びたカジュアルな服装の客が多いが、カップル客やサラリーマンもちらほら。南側の高層マンション住人は、ここまで来ることがあるのかないのか。近所にあってほしい、普通の名店といっていい。二階には「居酒屋くろ兵衛」もある。(2009.8.5)

川崎市中原区小杉町3-430-1
11:30〜23:30 日祝14:30〜23:00