橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

武蔵小杉「割烹こすぎ」

classingkenji2009-08-11

「くろちゃん」のカウンターに座り、ふと外を見ると、真向かいの店の様子が目に入ってきた。店先にはホッピーのポスターと、「レモンサワー 酎ハイ 100円」の文字。店内は明るく、外からでも中がよく見えるが、客のほぼ全員が、黒っぽいズボンをはき、白いシャツを着ている。スーツにネクタイ姿のサラリーマンが、上着を脱ぎ、ネクタイを外したという趣だが、全員揃ってというところが異様である。ちょっと気になったし、ホッピーも飲みたいので、入ってみる。
反対側の小上がりには、地元民らしいカジュアルな服装の客もいたが、やはり客の大部分はサラリーマンだ。店内は広い。左側には大きな長いテーブルがあり、これをカウンターのように使っている。他に六人掛けのテーブルが六卓、小上がりに四人掛けが四つ。二階もあるようだ。店員にインド人らしい女性が何人かいて目をひく。日本語はあまり上手ではない。
酒が安い。サッポロラガーの大瓶が四五〇円、ホッピーは四〇〇円。サワー類は二五〇円からで、生レモンサワーでも三五〇円、いちばん高い生グレープフルーツハイが四五〇円。日本酒は小徳利だと一五〇円。料理は種類が多く、刺身、もつ焼きをはじめ、一般的な居酒屋料理はほぼすべて揃っている。値段は概して安いが、もつ焼きだけは一本一三〇円と高め。注文してみたが、ゴムのような食感だったり、テクスチャーがごわごわしていたりで、タレの味もよろしくない。串系は、あまり得意ではないようである。
客層の多様さは、いい店のひとつのバロメーターだ。自宅から来た地元客と、仕事帰りのサラリーマンが交錯する飲み屋街の場合の話だが、地元住民しか行かない店は、常連客の交流場所であって味は二の次という場合があり、また仲間はずれで疎外感を味わう可能性もある。逆にサラリーマンばかりの店は、安いだけの店であることが少なくない。他の料理は試さなかったので断定は避けるが、ありきたりの料理で安く飲む、という目的にはいい店だと思う。(2009.8.5)

川崎市中原区小杉町3-430-1 
17:00〜24:00 無休