橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

中野「煮込み屋 ぐっつ」

classingkenji2009-08-18

生ホッピーを三杯飲んだところで「ぢどり屋」を出て、中野駅の方へ向かう。「第二力酒蔵」の前を通りかかったところで、向こうに見慣れない店がある。洋風の店のようだが、看板には「煮込み屋」の文字。これは、面白そうだ。
看板のもつ煮込みは、味噌味、塩味、赤ワイン味と三種類あり、いずれも三八〇円。他のメニューは、無国籍だが、強いていえばイタリアンに和を少し加味したといったところだろうか。牛タン柚子胡椒煮四五〇円、牛すじトマト煮四〇〇円、豚とカブのマスタード煮四五〇円、砂肝コンフィ四五〇円、つぶ貝ニンニクバター五八〇円、アボカドと小エビのわさび炒め五〇〇円、フォアグラの西京漬け八〇〇円など。
酒はひととおりあるが、とくに充実しているのはワインで、ボトルが二〇種類ほど。一八〇〇円から三〇〇〇円と、こんなに安くて良いのかというような値段だ。今日は早く帰るつもりだったので、「ボトルは持ち帰っていい?」と聞くと、「買っていただいたらお客様のものですから」というので、いちばん興味のあったチリのパヌール・ピノ・ノワールリゼルヴ・オーク・エイジド(二三八〇円)をいただくことにする。いかにもチリワインというような濃厚な色ではなく、旧世界的な複雑な色合いで、香りも品がいい。もつの赤ワイン煮には、とても相性がいい。サービスですと出してくれたのは、フォアグラの西京漬け。漬け込み具合もほどよく、脂臭さが適度に和らいで、絶妙な味。
七月に開店したばかりとのこと。洋風居酒屋として水準が高く、しかも安い。中野に名店がひとつ加わったといっていいだろう。今度来たときはゆっくりさせていただきます、と言い残して、暗くなった道を駅へ向かった。(2009.8.8)

中野区中野5−32−17
17:00〜25:00 月休