橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

アメ横「豚坊」

classingkenji2009-08-19

今日は、研究会で東大へ。場所は、今まで入ったことのない工学部一号館。建築学科のある建物で、若手三人と「ヤミ市研究会」である。別に怪しい研究会ではない。戦後のヤミ市に今日の繁華街の起源を探ろうという、まじめな研究会である。
研究会のあとは、実地調査をやることになっている(笑)。歩いて上野まで行き、アメ横へ。「大統領」か「文楽」が目当てだったのだが、どちらも満員で入れない。そこで入ったのが、この店。アメ横の文字通りのガード下で、店名は「とんぼう」と読む。最近よくある、レトロ風味のやきとり屋だが、看板には「昭和アメ横小劇場」とあり、演出であることを前面に出しているところが面白い。壁には、佐藤浩一がここで飲んでいる写真がある。「官僚たちの夏」で、ロケ場所に使われたらしい。昭和の雰囲気が、本物に近いとみなされたということだろう。たしかに、「大統領」の支店や新しくなってしまった「文楽」よりも、よほど昭和の臭いがする。
もつ焼きは、二本二一〇円。ボリュームがあり、味も水準をいっている。ビールはアサヒだが、生四二〇円と安い。日本酒はグラスで一六〇円、ホッピーもセット四〇〇円、中一六〇円と安い。うれしいことに、タン刺しがある。量は少ないが、新鮮ですっきりした味。
上野などで飲む客は、けっこう保守的だろうから「大統領」「文楽」を向こうに回しての商売は、さほど楽ではあるまい。しかしこの値段と内容なら、この場所で長く愛される店になる可能性が大きいと見た。ただし、ホッピーはちゃんと冷やしてほしいものである。(2009.8.14)

台東区上野6-11-6
16:00〜23:00 無休