橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「マルキ市場」

classingkenji2009-02-10

姪っ子が受験のため上京して我が家にしばらく泊まり込むことになった。この子、肉料理が好きなのだが、母親が肉嫌いのためいつもは食べられない。そこで最初の試験が終わった今日は、焼肉屋へ連れて行くことにする。家の近所で焼肉といえば、ここに決まりだ。
この店、「入場料」という珍しいシステムをとっている。多くの居酒屋には「付け出し」というのがあって、原価数円か十数円程度の料理に三〇〇円くらいを取って採算のベースにしているのが普通だが、こちらの入場料は八〇〇円で、しかも何も出てこない。しかし料理も酒も格安で、おそらくは一部を除いて原価レベルになっている。カルビもロースも二九〇円からだし、生ビールはちゃんとした大きさの冷えたジョッキ(サッポロ黒ラベル)でやはり二九〇円。マッコリは大きなぐい飲みに二〇〇ミリリットルはいって、やはり二九〇円。だから、だいぶ飲み食いしても、一人四〇〇〇円を超えることはない。店からすれば、あまり食べない客からもちゃんと利益を出せることになる。バーではチャージに一〇〇〇円程度とることがあるが、だからといって安いわけではないことが多い。梯子することのない焼肉屋だから成立するシステムかもしれないが、郊外の居酒屋なら不可能ではないように思う。
この店、ときどき新メニューが出る。今回の新メニューは、サントリーの角を使ったハイボール一九〇円。ソーダ割りとコーラ割りがあり、ソーダ割りを注文してみた。サーバーか何かを使ってバイトくんが注いでいるわけだから、ガス圧の弱いのはしかたがないが、濃度は適切。焼肉には合うようだ。古い映画にはよく出て来るが、かつて日本でも、ハイボールが流行ったことがあった。ウイスキーの値段は下がっているから、もっと飲まれてもいいはずだと思うのだが。下北沢、吉祥寺、中野など、城西地区を中心に一二店ある。(2008.2.4)

世田谷区桜上水1-6-17
17:00〜24:00(土日祝16:00〜) 無休
http://www.ya-ki-ni-ku.com/shop/index.htm