橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

新橋「立ち呑み ごひいきに」

classingkenji2007-09-12

福島から東京に戻り、銀座で日経の記者と待ち合わせ。七丁目の「ライオン」に入り、取材を受ける。テーマは、「なぜ居酒屋の一合は、店によって量が違うのか」(笑)。徳利というのはもともと、量り売りのための計量容器だったわけだが、天保年間に湯煎で燗をする飲み方が一般化してから、一合、二合などという小さい徳利が使われるようになる。この場合、徳利は計量容器から酒器に変化したわけで、もはや容量が正確である必要はなくなる。そこで、さまざまな容量の徳利が作られるようになり、次第に「一合」の概念がアバウトになっていったのではないか、などといい加減なことを話してビールを飲み終え、さらに「樽平」で少し飲んで分かれる。
まだ、飲み足りない。今日は、あまり行くことのない新橋にしよう。目に入ったのが、ニューウェイブの立ち飲み屋として評判の、「ごひいきに」。なるほど、モダンな内装だ。テーブルが広く、席をゆったりとれるのがいい。クールビズのサラリーマンが大部分だが、女性の姿もちらほら。うれしいことに、生樽ホッピー(三七〇円)がある。ホッピーを飲み、焼き鳥(もも、つくね一九〇円、レバ一六〇円)を食べていると、前の席に若い女性のお一人様が。黒ヱビスの生(五〇〇円)ともつ煮込み、焼きおにぎりを注文し、二〇分ほどで帰って行った。なかなかスマートで、いい使い方をする。三村ハイボール、中野ハイボール、尾崎ハイボールなど、ハイボールが五種類(各四〇〇円)。ダークラム、シェリー、ファジーネーブルなどをベースにソーダで割ったカクテルのようだ。「中野ハイボール」を呑んでみたが、甘くて閉口する。口直しに、私も黒ヱビス。大に近いほどの中ジョッキで、これで五〇〇円は安い。日本酒と焼酎も何種類かある。近所に勤めていたら、きっと足しげく通うだろう。(2007.9.5)