橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

音羽「太郎」

classingkenji2008-05-12

暖簾と貼り紙の「もつ焼き」「キッコー宮焼酎」「ホッピー」という文字を見れば、下町大衆酒場かと思ってしまうが、ここは旧小石川区(現・文京区)の音羽通り。護国寺の駅を出て、車の走る音羽通りを見渡すと、まるで海へと向かう大河のようだ。ここは両側を丘にはさまれた細長い窪地で、しかも下り坂になっているからである。ここは山の手の小石川区にありながら、巨大なスラム街だった場所。現在は、講談社をはじめとする出版社の本社ビルが建ち並ぶオフィス街になっているが、地形は変わらないから、歩道を歩けば通りかかる横断歩道のすべてから、急な上り坂を見上げる格好になる。この音羽通りのちょうどまん中あたりに見つけたのが、この店。
ホッピーは白と黒があり、三五〇円と安い。まずはホッピーを注文し、シロ、カシラ、タンを焼いてもらう。シロは下処理の問題か噛み切りにくいのが難点だが、味はいい。カシラとタンは焼き加減が良くジューシーで上出来。一本一五〇円だが、肉が大きいのでコストパフォーマンスは悪くない。鶏はとりねぎ、とりかわ、チキンボールとあり、こちらは一二〇円。鶏の方が安い店というのは珍しいが、これも看板のもつ焼きにいい素材を使っているからだろう。酎ハイはレモンスライスを入れ、ドリンクニッポンの炭酸がボトルごと出てくる本格的なもの。サラダや魚など、メニューも多いから、近くに勤めていれば足繁く通うことになりそうな店だ。(2008.4.23)

文京区音羽1-20-13
定休日不明