橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

中野「第二力酒蔵」

classingkenji2008-05-09

広く知られた魚料理の名店。広い壁面は、ありとあらゆる魚料理のメニューで埋め尽くされていて、値段も幅広い。まぐろ大とろ・中とろは「二九五〇円より」とあるが、おそらく一流寿司屋クラスのものを使っているのだろう。同じくまぐろの中おちは一四〇〇円、赤身の刺身は一一〇〇円。これほど高い中落ちは、他で見たことがない。こうなると、あわびステーキ二九五〇円というのを割安に感じてしまう。かと思えば、近海きす・めごち・穴子天麩羅は一〇〇〇円と普通の値段。ここへ来たらぜひ頼みたいのは、あら煮六五〇円と豆腐煮四五〇円。豆腐煮は魚の煮汁で上質の豆腐を煮込んだもので、味も舌触りも絶品。第二というからには第一や第三があるのか、と思う人も多いだろう。真相は不明だが、昔住んでいた上板橋には、第七力酒蔵というのがあったから、少なくともある時期までは何店かあったのだろう。
客の七割くらいは、スーツにネクタイ姿のサラリーマンだ。新橋や神田ならともかく、郊外の居酒屋でこれほどサラリーマン比率の高い店も珍しい。特に二階へ通されるグループ客は、ほとんどサラリーマンばかり。宴会と接待に常用されているようだ。あとは、中高年夫婦がちらほらと。安い店ではないから、若者はほとんど見かけない。中野は若者の多い町だが、ここは別。そういえば、中野にはサラリーマンの多い店、若者の多い店、両者が共存する店と、居酒屋にもそれぞれ個性があるようだ。ビールがスーパードライというのが難点。だから私は、どこかでビールを飲んでから行くか、あるいはビールは生を一杯だけにして(スーパードライも、生なら何とか飲める)、あとは日本酒に移ることが多い。(2008.4.18)

東京都中野区中野5-32-15 
14:00〜23:30 日休