橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

中野「加賀屋」

classingkenji2007-07-20

今日は某区役所で、住民台帳から1000人分もの住所と名前を書き写すという重労働をし、疲労困憊のあまりふらふらと中野へ。「魚の四文屋」でアジのなめろうをつつきながらビールを飲み、ほっと一息ついてから「加賀屋」へ。開店直後だが、すでにカウンターはほぼ満員。いちばん端に座らせてもらう。まずは煮込みとホッピーを注文。店は二本の路地にまたがる細長い作りで、L字型カウンターが八席、テーブルは六卓あって三〇人ほど座れるだろうか。
カジュアル姿の三〇代男性、同じく五〇代男性、六〇代男性、六〇代男性二人組、スーツにネクタイ姿の三〇代男性、同じく五〇代男性。後から入ってきたのは、カジュアル姿の五〇代と四〇代の女性二人組。普通の主婦のような雰囲気だが、こんな店に一緒に入るくらいだから、良い友達なのだろう。客は次々に入ってくる。ネクタイ姿で上着を脱いだ四〇代男性、黄色のポロシャツを着た三〇代男性、ドレスシャツ姿の四〇代と六〇代の男性二人組、赤いポロシャツの五〇代男性。五時過ぎという時間帯のせいもあるかもしれないが、カジュアル姿が多い。
カウンターの中と厨房には、五〇代二人、四〇代一人、三〇代二人と五人の料理人がいる。フロアには、六〇代と二〇代の女性。二〇代の方は中国人のようだ。下町居酒屋のような雰囲気とスタッフ構成である。客が入り口の方をふり返り、「あ、キジトラが来た」という。見ると、猫が餌をねだりに来ている。フロア係の六〇代女性が餌をもって外に出る。客は「餌が欲しいんじゃなくて、相手して欲しいんじゃないか」という。キジトラが餌を食べていると、もう一匹ホルスタイン模様の猫が近くにやってくるが、こちらは餌をねだったりせず、どっしりと座る。猫が来る居酒屋は、良い店だと思う。それだけ、店の人にも客にも余裕がある。最後は、ニホンシトロンを使った酎ハイで締める。炭酸の刺戟が心地よい。(2007.7.18)