橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「みつぼ」

classingkenji2007-06-20

住所は南池袋で、ジュンク堂の横を入ったところにある焼きとんの店。一本九〇円の焼きとんは、ふわ(肺)、きく(腸の回りの部分)など珍しいものも揃え、なんと一五種類。一本から注文できるのがうれしい。刺身もレバ、ハツ、タン、ガツ、コブクロと五種類あってそれぞれ三五〇円、五種類を盛り合わせた刺し盛りは七五〇円(写真)。朝引きの豚というだけあって、新鮮そのもので臭みがない。ガツだけはゆでてあるようだが、他は完全に生である。量が多く、これ一皿食べるとかなりおなかが一杯になる。焼きとんもかなりボリュームがあり、いろいろ食べたいなら二人以上の方がいいかもしれない。焼きとん好きの人は、ぜひ一度行ってみるべきだ。ビールはサッポロとアサヒがあり、中瓶四六〇円と安い。ホッピー(中二五〇円、外二〇〇円)もあるが、残念なことに冷えていない。氷と焼酎の入ったグラスにぬるいホッピーを注ぐと、ぬるいホッピーが出来上がり。そのままでは飲めないのでかき回すと、炭酸が抜ける。この店の唯一の欠点である。ハイボール(三五〇円)もあるが、これは普通のウイスキーソーダ割り。
店内は、向かって左側に直線カウンターが二本あり、その隙間は店員の通り道であるとともに、トイレへ行くときはお客さんもこの中を通るようになっている。右側にはテーブル席が四つほど。客は、普段着姿の人が多い。カウンターにいるのは、一人で飲むサングラスをかけた四〇代女性。スーツにネクタイ姿の四〇代男性。野球帽をかぶった五〇代男性。ジャージとシャツという思いっきりカジュアルな五〇男二人組。カジュアル姿の男性と、ヒョウ柄のワンピースを着た女性の三〇代カップルは、けだるい雰囲気を漂わせながら静かに飲んでいる。スーツにネクタイ姿の五〇代男性とカジュアル姿の三〇代男性は、若い方が連れてきたらしく、お薦め品をいろいろ説明している。席に着くなりビールと枝豆を注文したカジュアル姿の三〇代男性。スーツにネクタイ姿の四〇代男性二人組。テーブル席には、半袖シャツにネクタイの五〇代男性二人組。ちょっとお洒落な二〇代カップル。ギョーカイ風の五人組は、いずれも三〇代で、男性四人と女性一人。そしてカジュアルな男性二人組。この手の店にしては、やや女性が多い感じがする。
店名の由来は、「平成元年、学習院下、神田川畔三坪(みつぼ)五席で炭火焼き専門店として開業」したことからとのこと。六時過ぎに入ったが、すでにほぼ満員。カウンター席は、あらかじめ椅子を少し余裕を持って配置してあるようで、混み出すと客につめさせて、椅子を追加する。というわけで意外に入れるので、満員のように見えても店の人に声をかけてみるといい。(2007.6.19)