橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

三軒茶屋「兆治」

classingkenji2007-10-05

三軒茶屋のこの飲食店街を歩いていると、まず目にとまるのはこの「兆治」の赤ちょうちんである。中に入ると、壁に高倉健主演映画のポスターの数々。「居酒屋兆治」を初め、「夜叉」「駅station」「冬の章」など。一人で切り盛りするご主人が、健さんのファンなのだろう。メインの料理は焼きとんで、一一〇円が基本。豚トロや豚正は一五〇円。まずはホッピー(四五〇円)を注文する。L字型カウンターに七席、そして外壁に沿ったやはりL字型のカウンターに六席という小さな店だが、いつ来ても客がよく入っている。内側のカウンターにクールビズの四〇代サラリーマンが三人、五〇代サラリーマンが一人、カジュアル姿の二〇代の若者三人組。外側のカウンターには、カジュアル姿の三〇代男性が一人。三〇代サラリーマン三人組は、仕事関係のばか話をしている。若者三人組は、風俗情報やらテレビの話やらで盛り上がる。酒はけっこう充実している。日本酒は神亀、初孫、一ノ蔵などが六〇〇円。本格焼酎は栗丹波、三岳、唐変木などが五〇〇円から六〇〇円。甲類焼酎、つまり中おかわりは三〇〇円。酎ハイのソーダはニホンシトロン。ヤミ市の雰囲気を色濃く残すこの一角の居酒屋としては、店構えも開放的で、比較的入りやすい店だ。