橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

吉祥寺「てっちゃん」

classingkenji2007-09-22

大衆的な一大商業地として発展した上野・アメ横を別とすれば、吉祥寺のハモニカ横丁は、ヤミ市の雰囲気を残しながら多くの人々を引きつけ続けているという点で、数あるヤミ市起源の商店街の中でも特筆すべき存在といえる。飲食店はさほど多くないのだが、それでも魅力的な居酒屋がいくつかある。今日の最初に立ち寄ったのは、串焼き中心の店「てっちゃん」。カウンターとテーブルの椅子席が中心だが、店の前には立ち飲みスペースもある。まずホッピーを注文。冷えたホッピー、そして二五〇ミリリットルくらいの氷入りのタンブラー、皿に載せた分厚いガラスのコップを並べ、コップにキンミヤ焼酎をたっぷりと注ぐというちょっと変わったスタイル。タンブラーが小さいので、約三杯分ということになる。焼酎の量が多いので、中を一回お代わりしたのにほぼ相当するだろうか。これで六〇〇円。中と外はそれぞれ三〇〇円。串焼きは、豚のモツ焼きを中心に、地鶏や銘柄豚、合鴨、そしてイベリコ豚など珍しいものも並ぶ。普通の串は一〇〇円、合鴨と銘柄豚は二〇〇円、そしてイベリコ豚は三〇〇円。イベリコ豚を注文すると五センチ角ほどの肉に串を三本刺して焼いたものが出てきた。勘定は、串の数でというわけである。タレ焼きはなく、塩焼きのみ。なかなか潔いスタイルだ。カシラとシロは、普通に美味しい。レバは鶏で、とろけるようなミディアムレア。タンはジューシーでうまい。そしてイベリコ豚は、レストランで出すような逸品。串焼きが、もっとも優れた肉の料理法であることが分かる。
客層は幅広い。カジュアル姿に、クールビズがちらほら混じる。ちょっとおしゃれな二〇代女性の二人組。原色系のドレスシャツを着た三〇代の白人男性と通勤着の二〇代女性。カジュアルな六〇代夫婦。クールビズの五〇代男性二人組、同じく三〇代男性二人組。カジュアルな二〇代男性二人組。ドレスシャツの五〇代男性一人客が三人。思いっきりカジュアルな二〇代男性三人組。カジュアルな男性二人組。アロハ姿の四〇代男性。そして、親子らしい五〇代男性と二〇代女性。中高年男性は、それぞれに企業の一線で働いてきたような雰囲気があり、若者たちには華がある。吉祥寺だなあ。
六〇代夫婦の男性の方が、白人男性に話しかける。最初だけ英語で、あとは日本語。焼き鳥ってのは、日本の文化です。日本の文化を知りたかったら、こういうところに来なきゃ。日本のサラリーマンは、こういうところに通って頑張ってきたんです。ライオンは獲物を捕まえると、まず内臓を食べるんです。それを食べて、頑張るんですよ──。半分くらいは分かったんだろう。白人男性は、微笑んでうなずいていた。