橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「のとだらぼち」

classingkenji2007-07-14

今日は、高校の同級生二人(うち一人は、私の妻だが−笑)と「のちだらぼち」で待ち合わせ。ここは、能登の企業家たちが出資しあって作った能登料理居酒屋である。「だらぼち」とは「ばか者」というような意味で、要領が悪く、鈍で、真っ正直な人間のこと。外堀通りの銀座八丁目、ヤナセビルの向かいの地下にあり、L字型カウンター七席と、板の間のテーブル席五卓ほどの小さな店だが、いつも満員で予約なしではなかなか入れない。能登から直送された魚や肉、野菜、そして日本酒と焼酎を出す。今日もメニューには、のどぐろ、くちこ、ふくらぎ、こんかいわし、ふぐの一夜干し、ぬかふぐの子、いしりの貝焼きなど、能登ならではのものが並ぶ。東京で生くちこ(なまこの卵巣)を食べられる店は、ここ以外に知らない。しかも、小鉢に数匹分入って八〇〇円だから安い。酒は、竹葉、大慶、初桜など奥能登の佳酒が八種類。客は、サラリーマンの二−四人組と、味を知る落ち着いた感じのカップルが中心だが、派手な服装の銀座の女たちも顔を出す。
銀座には、なぜか加賀・能登の料理店が多い。能登料理なら、三原橋の近くの「時代屋」もおすすめ。加賀料理なら、コアビル九階の大志満がいい。