橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「さしあげ亭」

classingkenji2012-04-30

池袋には昔からの富山料理の店があったはずだが、閉店したようだ。いま残っているのは、この店。開店がいつだったかわからないが、さほど古い店ではない。
新宿とここの二店だと思うが、厨房は奥にあり、バイトの店員が運んでくるスタイルで、雰囲気はチェーン店に近い。しかしメニューは充実していて、のどぐろ刺身、白海老刺身、がす海老刺身、ホタルイカのしゃぶしゃぶなど、富山ならではのものが並ぶ。この日は季節メニューに能登産生牡蠣があったので、いただいた。雪解け水で大きくなる能登の牡蠣は、今が旬だ。ぷりぷりした食感に、とろりと濃厚な甘味が味わえた。
日本酒も充実していて、立山、満寿泉、銀盤のような有名酒だけでなく、苗加屋、三笑楽、風の盆、勝駒など、あまり知られていないものを含め、富山の酒が十種類。そして各地の酒が十種類で、計二十種類。ちょうどいい数の品揃えである。しかもハーフグラス、グラス、デキャンタと三つのサイズを選べるのがうれしい。苗加屋の純米吟醸生原酒(ハーフグラス四四〇円)は、甘味と香りがともに強く、飲み口はスムーズ。風の盆・純米酒(ハーフグラス五〇〇円)は、甘味と熟成香が口中にふわりと広がる。いずれも富山の酒の一般的なイメージと違って、かなり濃醇タイプである。
L字型カウンターに八席、大小のテーブルが八つ。やや規模が大きく、個人経営の居酒屋の良さは求めるべくもないが、魚と酒を楽しむにはいい店である。(2012.4.17)

豊島区池袋2-41-2
16:00〜4:00 無休