橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「画廊萬家」「最上」「第二宝来家」

classingkenji2007-07-15

今日は、『吉祥寺「ハモニカ横丁」の記憶』を書いた井上健一郎さんと池袋の東急ハンズ前で待ち合わせ。井上さんとは、今回が初対面。大学を卒業し、新潟で会社員をしておられるが、いまでも足しげく東京に通ってヤミ市研究を続けているとのこと。そこで本人の希望で、池袋・人世横丁と新宿・西口商店街を案内することになったのである。まずは人世横丁へ。目当ては「最上」だったのだが、六時なのでまだ開いていない。そこですぐ近くの「画廊萬家」へ行く。ここは二〇代の若者が経営する店で、客層も若く、オープンな雰囲気。このあたりではいちばん入りやすい雰囲気の店なので、人世横丁初心者には最適だ。まずは、サッポロラガーで乾杯。とりあえず枝豆を注文したら、その場で茹でて熱々のものに塩を振って出してくれた。その方が旨いとわかっていても、なかなかできないことである。ワンカップの日本酒をいろいろ揃えていて、開けたてのコンディションの良いものをいろいろ飲めるのもうれしい。井上さんのヤミ市研究への熱意には並々ならぬものがある。専門が都市計画論なので、社会学者の私の知らない研究動向をいろいろご存じで、こちらもたいへん勉強になった。
七時ごろ「最上」に灯りがともったので、移動。ここの女将さんは人世横丁商店会の役員で、人世横丁について話を伺うには最適の人物。以前来たときに、ハモニカ横丁のパンフレットを作った人を今度連れてくるよといっていたのを、ちゃんと覚えておられて、歓迎してくださった。お通しは、なんと城下ガレイ。透き通った身が美しい。そば焼酎をロックでいただきながら、いろいろ話を伺う。写真は、人世横丁の新キャラクターを務める招き猫くんである。
顔つなぎが十分できたところで、次は新宿西口へ。目指すは「第二宝来家」である。残念ながら、ご主人の金子美栄さんは不在だったが、息子の栄二郎さんがいらっしゃって、少しだけお話をうかがうことができた。残念ながら、お祖父さんの金子正巳さんは、もう亡くなられたとのこと。井上さんはハモニカ横丁のパンフレットを渡し、調査への協力をお願いする。これでまたひとつ、手がかりができた。
井上さんによると、ヤミ市に関心を持つ若手研究者が何人か出てきているとのこと。当時を知る人々は、おそらく数年のうちには他界されることだろう。今が最後のチャンス。研究の進むのが楽しみである。なお『吉祥寺「ハモニカ横丁」の記憶』はまだ残部があるとのこと。関心のある方は、井上さんのホームページから注文してください。(2007.7.14)