橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「早雲」

classingkenji2010-03-19

今日はずっと家で仕事。こういう日は家で食事をするのが普通だが、妻が友人とフレンチへ行くというので、私は一人で近所へ飲みに行くことに。駅と反対方向なので、これまで入りそびれていたこの店へ行ってみることにした。
店頭のメニューに、而今、王禄、くどき上手、長珍、田酒などとある。日本酒が自慢の店であることがわかる。値段は、正一合で九〇〇円前後。八九〇円、九二〇円などという、細かい値付けが好ましい。料理は魚介類が中心の純和風である。刺身が、ふぐ、マコガレイ、しめ鯖、つぶ貝など。焼物は、銀むつ、カレイ一夜干し、本ししゃも、スルメイカサヨリと豆腐の胡麻あんかけ、新じゃが饅頭など手の込んだ料理、ばくらい、酒盗などの珍味もあり、日本酒の肴には事欠かない。刺身の盛り合わせ(一九八〇円)を注文したところ、しめ鯖、甘海老とふぐのぶつ切りが出てきた。ぶつ切りのふぐは、小さなホタテほどの大きさで、旨みをストレートに楽しめる逸品。
半地下にある店は細長い造りで、カウンター五席とテーブル三卓のみ。全部で一五席ほどだろうか。郊外、しかも街外れの店としては、値段はやや高めだが、若いカップルと、中年のご婦人たち、男性の一人客などでほぼ満席。地元民としては、ちょっとした贅沢を近所でという時に使える店だが、小田急沿線に住む日本酒ファンなら、たまに途中下車する価値がありそう。(2010.3.6)