橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

歌舞伎町「三日月」

classingkenji2007-03-05

歌舞伎町の風林会館そばには、ゴールデン街ほど規模は大きくないものの、ヤミ市的な臭いのする路地がある。その中にある、知る人ぞ知る隠れ家のような店がここ。以前、マスコミ関係者に連れられてきたことがあり、いい店だという記憶があったので、再訪。ただし、場所はたいへんわかりにくい。二〇分ほど歩いて、ようやく探し当てた。小さな店で、カウンターが六席と四人座れるかどうかというテーブルがひとつだけ。品書きは、季節の魚介類が中心で、そのほかにオールグリーンと称する青物野菜数種類の炒め物や、湯豆腐、オムレツ、ステーキなど。ビールはサッポロとキリンを置く。鮪中落ちを注文すると、インドマグロのカマトロの部分が皿にどっさり出されてきた。美味。この店は一九五一年開店で、現在の主はこの店で一九五二年に生まれたとのこと。笹口幸男の『東京 横町の酒房』によると、先代の主人は早稲田大学相撲部の出身で、そのためボリュームのある料理を出すようになったのだという。現在の客は、マスコミ・出版関係者が多いようだ。メニューには値段が書かれていないが、普通の居酒屋よりわずかに高めと考えればよい。
今日は小雨模様のせいか姿が見えなかったが、この路地には野良猫がいて、それが一〇年前に生んだ猫を、この店の二階で飼っているそうだ。歌舞伎町裏路地の野良猫、いつかお目にかかってみたいものである。(2007.3.4)