橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「青樹」

classingkenji2009-05-11

ニュー新橋ビル横を通り抜けた新橋の南側は、けっこうディープな地域で、あまり足を運ぶことがない。地酒を多く揃えた店のさきがけのひとつである「さんの蕗」には、昔ときどき行ったが、最近はすっかりご無沙汰。かつては風俗系の店が多かったという記憶があるが、今日行ってみると、思いっきり庶民的な大衆酒場が増えていて、連休の谷間というのに満員盛況の店が多かった。
始めて入ったこの店など、このご時世にホッピーセットが三五〇円(中二〇〇円、外二五〇円)。生ビールは四六〇円、酎ハイは二五〇円、サワー類三三〇円、日本酒も二五〇円という安さ。もつ焼きは二本二〇〇円、地鶏の焼鳥は二本二九〇円だ。スーツにネクタイ姿のサラリーマンもいれば、OLもいる。カジュアルな服装の若者もいれば、さえないオッサンもいる。細い路地を隔てた反対側も、同じようなもつ焼き屋だ。オープンエアの席とカウンター、テーブル席が選べるのもうれしい。その前後にも、同じような店が並んでいる。
この路地に入れば、もう店に入ったも同然。入りやすい雰囲気の店ばかりだ。というのも、路地と店内の境目がないからだ。ヤミ市に始まる大衆酒場文化は、不景気と格差拡大の二一世紀に、ついに新しいビジネスモデルとして蘇ったのか。今日はこの路地に、どっぷり浸かってみよう。(2009.5.1)

港区新橋4-18-7
16:00〜23:30 日祝休