橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

池袋「SNARK LIQUIDWORKS」

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わが家の隣に、「西池袋mart」という建物がある。元は商業ビルだったらしく、商店の名前の看板がいくつか残っている。そうとう古い建物で、名称からみても、おそらく露店整理で立ち退いた商店を収容するために作られたものだろう。ほとんどの店舗は退去して、わずかな数の住人を残すだけの廃ビルのようになっていた。

何ヶ月か前、そこに商店らしきものが入居するらしいと気がついたが、SNARK LIQUIDWORKSという謎の店名。不思議に思っていたところ、3月になって、なんとクラフトビールの店が開店するとの予告が張り出された。調べてみて、びっくり。古い知人で、全米自家醸造協会からホームブルワー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたこともある藤浦一理さんが、ここでクラフトビールを造って飲ませる店だという。ちなみに経営は、椎名町の「シーナと一平」などを営む株式会社シーナタウン。

しばらく前から土曜日に限ってプレオープンしていて、そのたびに訪れていたのだが、今日はいよいよグランドオープン。店内は、客と関係者でいっぱい。開業したばかりなので、ここで造ったビールはアメリカンスタイルのペールエール一種類のみ。アメリカンパイントが一一〇〇円。最初は装置の癖が分からないため、思い通りにならないことが多いというが、さすがは藤浦さん。すでにかなりの出来である。その他、他社製のクラフトビールが三種類ほど。

ビールの種類は、これからどんどん増えていくだろう。隣にこんな店ができてしまったら、入り浸るしかないではないか。営業時間・定休日などは未定だが、当面はほぼ毎日、午後九時くらいまで営業しているとのこと。(2019.4.21)

豊島区西池袋4-19-14

今年の花見酒

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今年は何回、花見をしましたか。

自宅から歩いて3分ほど、立教大学池袋キャンパスの南側の門のそばに桜の木が二本あるが、そのうちの一本を個人的に「ソメイヨシノの標本木」に指定して、毎日写真を撮ってきた。これはその、3月28日から4月20日までの24日分をまとめたもの。

今年は満開になってから寒の戻りがあり、満開に近い期間が長かった。おかげで何度も花見酒や、花見のあとの居酒屋訪問を楽しむことができた。桜好きにとっては、恵まれた年だったといっていい。

草津「アル・ロドデンドロ」

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三月の終わりになって、やっと暇になった。というわけで、二泊三日の日程で草津温泉へ。実は、草津温泉は初めて。湯畑のみえる部屋を取って、一日目はゆっくりくつろぐ。そして二日目のランチは、このイタリアンへ。綿貫ペンションという「日本初のペンション」と称する宿泊施設の経営で、レストランはもちろん、宿泊客以外も利用できる。

ランチは一六五〇円から四種類で、めったに来ない場所だからいちばん高い五四〇〇円をオーダー。前菜は、生ハム、豚のロースト、フキノトウのピクルスなどの盛り合わせ。次が群馬県産カボチャのスープ。パスタは海の幸のパスだったものを、お願いして鹿肉のラグーのパスタに変えてもらう。そしてメインは、赤城豚フィレ肉と自家製パンチェッタのロースト。最後にデザート。

ワインはイタリア産を中心にいろいろ揃えている。白のグラスをもらったあと、リナルディのドルチェット・ダルバをいただいたが、フルボトルで六〇〇〇円とリーズナブル。最後にはフキノトウのチェッロをいただいたが、これはサービス。大満足のランチだった。湯畑から歩いて一五分ほど。ホームページからでも予約できる。(2019.3.26)

群馬県吾妻郡草津町557-11
https://watapen.com/restaurant/
11:30~14:30 18:00~22:00 月休

板橋「Tokyo Aleworks Taproom」

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JR板橋駅、あるいは東武東上線下板橋駅からほど近い場所に、クラフトビールの店ができたというので、行ってみた。建物の一階にブルワリーがあり、その横にTaproomと称するビアレストランがある。店内は、思ったより広く、おしゃれなカフェバーの雰囲気。

タップは二十二もあり、自家醸造とゲストが半分ずつ。自家醸造ものは、クリームエール、ペールエールIPA、セゾン、コモン、ドライスタウトなど。パイントが一〇八〇円、ハーフ六〇〇円が基本で、度数の高いインペリアルIPAはハーフで一〇〇〇円、バレルエイジドはハーフで一三〇〇円。好きなものを四つ選んで小グラスで供する「ビアフライト」が一二〇〇円だから、最初はこれを注文する。雑味は少なく、それぞれの個性もくっきりしていて、出来はいい。ゲストビールは、米国、ドイツなど国外が九種類と、国内が二種類だった。

料理は、フライドチキンやハンバーガーなど、カジュアルなものが多く、私は注文しなかったが、若い人なら楽しめそう。もっと近所にあれば、足繁く通うのだが。(2019.3.10)

板橋区板橋1丁目8−4
平日11:30~14:30、17:30~23:00
土日 11:30~23:00 月休

川越「いちき」

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この日は、全国青年司法書士協議会の大会で講演のため、川越へ。講演は翌日なのだが、大きなイベントのため打合せのあと前泊することになった。打合せは一時間ほどで終わり、そのあと居酒屋を物色する。川越駅本川越駅を結ぶショッピング街、クレアモールには飲食店も多いが、チェーン店が中心で、こころ惹かれる店がなかなかみつからない。本川越駅近くまで歩いて、ようやく見つけたのが、この店。

カウンターが八席と、テーブルがいくつか。座ってビールを注文すると、お通しが運ばれてきた。これがなかなかな凝っていて、蛸の煮物、湯葉、きびなごの握りなど五種類が、細長い平皿に並べられている。これは一杯目から日本酒を飲みたくなる。ビールはサッポロ、キリン、アサヒと揃い、さらに地元の小江戸ビールがなんと六種類。日本酒は明鏡止水、黒龍、寫楽など六種類あって、九〇ミリリットルのグラスが四〇〇円から六〇〇円。

お勧めだという鹿児島風のとんこつ(三八〇円)を注文したところ、これだけでお腹がいっぱいになりそうなほどのボリューム。刺身の「ちょい盛り」(七八〇円)は、うって変わって金目、鯛、鰆が品良く盛られてきた。この時期には珍しい稚鮎の天ぷら(六八〇円)も、きれいに揚がっていて美味しい。川越にいい店を見つけて、気分良くホテルに帰った。(2019.3.1)

川越市新富町1-12-3
17:00~24:00 日休

東長崎「ぼんぼり」

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この日は、2駅隣の東長崎へ。東長崎といっても、これは西武池袋線の駅名で、東長崎という地名があるわけではない。これはおそらく、九州の長崎駅と区別するために付けられた名前で、地名は長崎と南長崎になる。池袋とは目と鼻の先のようなところだが、愛すべき居酒屋がいくつか。今日は、これまで入ったことのないこの店に。

白木をベースにした内装で、カウンターと、テーブルがいくつか。日本酒は、「鳳凰美田」「早春」「カネナカ」など一〇種類ほど、筋のいいものを揃えている。料理は、一見ふつうのようで、ひと工夫されたものが並んでいる。モツ煮込みを頼んだところ、鍋を使って調理を始め、出てきたのは数種類の部位を柔らかく煮込んでからコンフィにしたような一品。これは、ワインに合いそうだ。ちょっと真似してみたくなる。

張り紙によると、江古田の「らんたん」がグループ一号店、この店が二号店で、昨年一〇月には高円寺に「あんどん」という三号店がオープンしたとのこと。全部制覇してみたいものだ。駅から北口へ出て徒歩一分、ウナギ串焼きの「くりから」の隣にある。(2019.1.19)

豊島区長崎4-9-5
17:00(土日15:00)~24:00 水休

高田馬場「吟の邑」

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「まるはち」を出て、駅の周辺をさらに物色。見つかったのが、見覚えのあるこの看板。店名は似ているし、デザインもそっくりだ。尋ねてみると、やはり吉祥寺にある日本酒の店「吟の杜」の姉妹店だった。

本日の酒は、「玉川」「多摩自慢」「鳳凰美田」「風の森」「寫楽」「流輝」など二〇種類ほど。選りすぐりの純米酒ばかりで、九〇ミリリットルのグラスが四〇〇円または四九〇円とリーズナブル。肴の定番は、熟成鮮魚盛り。ヅケや昆布〆にした刺身の盛り合わせで、一人なら三種盛り(七八〇円)がいい。

吉祥寺の店を、三分の二くらいに小さくした感じで、インテリアはそっくり。「まるはち」とは違って大人の店だが、一〇〇分間飲み放題(二〇〇〇円)というのもあるらしい。今度来たときは、試してみよう。(2018.11.17)

新宿区高田馬場3-2-5 ANビルB1
月~金17:00~ 土14:00~ 日・祝16:00~

高田馬場「マルハチ」

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この日は大学からの帰り、ふと思い立って所沢で新宿線に乗り換え、高田馬場へ。駅の近くで日本酒が揃っていそうな店を物色。まず入ったのは、この店。若者向けの店構えで、店内のインテリアも配管がむき出しだったり、スパイダーマンのフィギュアがあったりという感じ。メニューも無国籍料理が多いが、刺身も数種類。

日本酒はというと、常備されているのが「十四代」「獺祭」「新政」「飛露喜」など超有名酒に、「陸奥八仙」「鳳凰美田」「風の森」といった実力派など三十種ほど。さらに季節メニューには「作」「五橋」「澤屋まつもと」など。これだけあれば、文句はない。値段はものによって違うが、一〇〇ミリリットルが五〇〇円から九〇〇円ほどが多い。

JRの駅を出てすぐ。場所柄、いつも静かに飲めるというわけではなさそうだが、手軽に日本酒を楽しむにはよさそうだ。(2018.11.17)

新宿区高田馬場2-16-5
17:00~翌5:00 無休

神戸「地酒バル 飲山」

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 この日は、学会で神戸へ。三宮駅近くのホテルを取り、近所で飲もうと出かける。日本酒が飲みたかったのだが、店頭のメニューや看板をみるかぎり、十四代、獺祭、飛露喜など、東京でいくらでも飲める超有名酒を前面に出した店ばかりだ。兵庫の酒を飲ませる店はないのかと、探し回って見つけたのが、この店。店名は「いんざん」と読むらしい。カウンター八席だけの小さな店だ。

龍力桜正宗、竹泉、来楽、香住鶴、八重垣、空蔵など、日本酒メニューには十六種類。有名なものも知らないものもあるが、すべて兵庫の酒だとのことで、六五〇円均一。その他、季節の酒も数種類。料理は、鶏肉の料理が数種類と、ナスの煮浸し、ごま和え、しらすおろしなどの手頃な酒肴が二十種類ほど。兵庫の酒を手軽に飲むにはいい店である。(2018.9.14)  

今年の立春朝搾り

 

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 毎年楽しみにしている「立春朝搾り」。今年はこの七種類。左から、梅錦、千代の亀、酒呑童子紀伊国屋文左衛門、旭日、月の桂、開華。まだ開華しか飲んでいないが、華やかな香りとフレッシュな米の味。すばらしい。酒販店で開華の仕込み水をもらったので、一緒に飲んでみると、まったく同じ味がする。酒の味は水で決まるというのが、よくわかる。

しかし、不満が一つだけ。ラベルのデザインをなんとかしてほしい。まるで神社のお札で、こんなものを眺めていても、酒はうまくならないし、そもそも消費者へのアピール力がなさ過ぎる。まるで、知っている人しか買わなくていいといってるみたいだ。春への期待、あこがれを表現した、もっと華やいだ雰囲気と、蔵の個性が欲しい。日本酒は近年、味もラベルも多様化が進んでいるのに、こんな素晴らしい商品が進化しないのは惜しい。平成が終わるのを機に、一新してほしいものである。