橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

森まゆみ『望郷酒場を行く』

雑誌『東京人』に連載されていたもので、東京にある郷土料理店を、東京料理も含めて四七都道府県全部探して制覇するという、とんでもない企画。さすがに無理があったようで、奈良は名酒「春鹿」を出す店、埼玉は同じく「神亀」を出す店、栃木は栃木出身者が栃木の野菜を使っている、という具合で、少々苦労されたようだ。それでも、ほとんどの県は、なるほどという店が揃っている。地方出身者の集まる東京に郷土料理店が多いのは当然とはいえ、 これほど奥深かったかと思わせる。
とくに行ってみたくなったのは、熊本料理の「あまくさ」、岐阜料理の「山猿」、そして岩手料理の「藍」。読んで楽しく、飲みに行くのに役に立つ。しばらくは、手放せそうにない。

望郷酒場を行く (PHP新書)

望郷酒場を行く (PHP新書)