橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

四万十市「一煎」

classingkenji2011-01-09

この日の二軒目に入ったのは、この店。いかにも地元客相手の普通の居酒屋という趣で、しかも表に出ている品書きに「天然あゆ塩焼(二匹) 八〇〇円」とある。「たにぐち」にも天然鮎はあったが、それなりの値段だったし、今は季節ではないということで食べなかった。この安さでは、入るしかない。
中は意外に広く、奥に座敷、右側にテーブル、中央にテーブル席がある。まずは燗酒と鮎の塩焼きを注文。メニューに「スマタタキ」とあるので、何かと尋ねると、ソウダガツオだとのこと。これも注文する。ソウダガツオは小型の鰹の一種で、足が早いため生のまま流通することは少ない。加工品では見かけるが、生のものには初めてお目にかかった。小さいだけにあっさりした味で、鰹好きには少々物足りないかもしれないが、これはこれで美味しい。鮎の塩焼きは、十分大きなものが皿に二匹平行に並べられて出てきた。この季節だから冷凍かもしれないが、臭みもなく、味は濃厚でありながらすっきりして、十分美味しい。
親子らしい女性二人で切り盛りする。少し言葉を交わす。──どこからいらしたんですか。東京からです。高知は観光県といっていいと思うが、中村にまではなかなか来る客がおらず、宿泊客は少ないとのこと。地方へ行ったときには、郷土料理をいろいろ揃えた店に、少なくとも一軒は入っておいた方がいいが、こういう普通の居酒屋では、種類は少ないながらも安くおいしいものが食べられる。(2010.12.20)

高知県四万十市中村東下町25