橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

サッポロホールディングス株主総会

classingkenji2009-04-01

二年ぶりに出席してきた。会場は、恵比寿ガーデンプレイス。二年前は、スティール・パートナーズの買収提案で大騒ぎになり、マスコミが多数押しかけたが、今回はさほどではない。金融恐慌でスティールも資金不足に陥り、買収する体力もなければ信用もなくなっている。申し訳程度に、外野で現経営陣の退陣を主張したが、総会は欠席。もう、サッポロの株価を左右する力もないだろう。報告と議案の両方について、一通りの説明のあと質疑応答が行なわれたが、要点は次のようなところ。
まず業績報告で注目したのは、飲食店の業績について、ビアホールは堅調だったが、客単価の高い和食業態が不振だったことをふまえ、より客単価の低い新業態を開発するという方針が示されたこと。居酒屋価格で、ライオン水準のビールが飲めるなら、こちらとしては大歓迎である。
質問が集中したのは、シェアが四位に転落したことについてで、サッポロビールの福永社長は、大きな責任を感じており、この年一年限りのことに終わらせるよう全力を挙げると述べた。具体的には、最初はヒットしながらも二年目以降商品として育てられなかった「ドラフトワン」の失敗を繰りかえさないよう、現在好調な「麦とホップ」を育てていきたいとのことだった。
「ギネス」の販売権をキリンに奪われたことについても質問がいくつか出た。福永社長は、残念な反面、これまでは同種の商品を販売できなかったこと、ギネスにマイナスになるような広告展開ができなかったという面もあり、逆に生かす方法を考えたいとのことだった。これに関連して、ギネスをメインにした業態であるダブリナーズ・アイリッシュ・パブをどうするかという質問が出たが、これに対してはサッポロHDの村上社長が、現在検討中でまだ結論が出ていないが、販売権の切れる五月末までに結論を出す、と述べた。これは、けっこう重要発言である。三月末になっても方針が決まらないということはあり得ないので、直前にならないと発表できない理由があるはずだ。ギネスをキリンから仕入れて売るということは考えられないし、同種の商品を展開できない制約がなくなるという福永社長の発言と考えあわせると、意図がみえてくる。おそらく、「サッポロスタウト」を開発し、他種のアイリッシュエール、イングリッシュエールとともに提供するということではないか。
ティールへの対応についても質問が出た。スティールへの対応にどれくらいの費用と労力を使ったかという質問については、若干の弁護士費用が発生したほか、村上社長自身は、個人的な感覚と断りながら、全体の二割程度の労力を割いてきた答えた。なかなか考えられた回答で、株主に対しては、致命的というほどではないとしても、まあまあの労力をとられたのであり、スティールのおかげで株主も迷惑を被ったという印象を残した。
終了時には、いつものとおりビールとドリンクの六本セットが配られた。写真は、会場の前で、もらった六本セットをカバンに入れようとする株主たち。快晴のガーデンプレイスは、なかなか美しい。まさに、ビール日和である。(2009.3.27)