橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

ダブリン「ザ・ブレイズン・ヘッド」

classingkenji2008-06-23

ダブリン市街の中心部からやや西寄り、クライスト・チャーチとリフィー川の間あたりにあるのが、このパブ。看板に"Ireland's Oldests Pub"とあるとおり、創業はなんと1198年とのこと。日本では鎌倉時代の初期、源頼朝が亡くなる前年にあたる。現在の店ができたのは1688年で、当時は馬車客を泊める旅籠だったとのこと。これは、歴史の古いパブにはよくあることである。店の歴史はアイルランドそのものの歴史と重なり、ダニエル・オコンネルやロバート・エメットなど、アイルランド独立運動の指導者たちも、この店の常連客だったという。日本にも、なんとか17世紀くらいまで遡ることのできる料理店はあり、旅館の場合にはもう少し古い例もあると思うが、ここまで古い店というのは、おそらくあるまい。
店の前にはテラス席があり、地元の常連客らしい人たちが飲んでいる。建物に入ると、そこは銅褐色に輝く円熟した空間で、なんともいえない落ち着きがある。けっして格式張っているわけではなく、簡素な装飾の椅子や机は、田舎の旧家に遊びにきたようなゆったりした気分でくつろげる。観光客も多く、接客はたいへんフレンドリー。ビールはギネスが中心で、ここで飲んだギネスは、ギネス・ストアハウスに迫る味わいだった。そのほかにも、ギネス社の製品を中心に10種類ほどのビールがある。料理も充実していて、ビーフ・アンド・ギネス・シチュー(10.5ユーロ)は上質のビーフシチューでボリュームも十分。スモークサーモンのサラダ(10ユーロ)は、ほどよいスモークの厚切りサーモンの食べ応えがすばらしい。ダブリンへ行ったら、ぜひ行きたい名店である。(2008.6.16)

The Brazen Head
20 Bridge Street,
Dublin 8.
http://www.brazenhead.com/