橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

カン風トリップ

classingkenji2008-08-03

城アラキの名作マンガ「ソムリエ」にこんなストーリーがある。世界的な名指揮者ペール・ブレイズが、主人公・佐竹城の店へやってくる。最高級の料理とワインを出さなければと意気込む支配人をよそに、城はふだん飲みのヴァン・ド・ターブルと、大衆的なビストロで出すような料理を用意する。もともと大衆趣味で高級料理に嫌気がさしていた指揮者は、そのサービスに感心し、日本に来たらまたこの店に来ようと約束する。出した料理のひとつが、この「カン風トリップ」(もうひとつは、アンドゥイエット)。ノルマンディー風のトリッパ、ようするにモツ煮込みである。以前から食べたいと思っていたのだが、デパートの食品売り場で、出来合いのものを売っていたので買ってきた。ノルマンディー名産のシードルやカルバドスといっしょに煮込むらしいが、基本的には淡泊な塩味で、わずかに胡椒とハーブの香りがする。使っている部位は、何種類かの胃袋で、少なくともガツ、センマイ、ハチノスが入っているようだ。醤油と酒を少し加えれば、ほとんど日本のモツ煮込みと変わらないものになりそう。たしかに、安い赤ワインによく合う。(2008.7.31)