橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「きくや」

classingkenji2007-06-07

仕事の帰り、ハイボールがどうしても飲みたくなって、ちょっとだけ「きくや」に寄る。ほぼ満員だったが、隙間になんとか入れてもらった。今日は、なぜか刺身がない。こんな日もあるんだな。ハイボールの一杯目は、いつになくぬるかった。二杯目からはまともな温度になったので、ちょっとしたミスだろう。まずはカシラ、シロ、タン、オッパイを塩でいただく。
この店、何度か通ううちに、けっこう個性的な客が多いということがわかってきた。同じテーブルを囲んだ四〇代から五〇代の五人の男性客は、たまたま居合わせた二グループが仲良くなったというようす。もともと知り合いではないらしく、お互いの仕事のことを訊ねたりしながら、盛り上がっている。坊主頭の四〇代男性は、フランス語の翻訳をしているとか。他の四人も、堅気の商売ではなさそう。この場にいない人物を先生などと呼んでいるところをみると、芸術関係だろうか。三人が帰り、二人が残ったが、その後に入ってきた五〇代の女性が、今度は久しぶりに会う顔見知り。最初からいた五〇代男性がハイボールのお代わりをおごろうとするが、これから別の店へ行かなければないから、今度お会いしたときになどと丁重に断っている。女性は、ここのハイボールが美味しくて、飲みたくなって来たんですと、付け出しとハイボール一杯だけで帰る。勘定は五七〇円。その他には、お洒落なカジュアル姿の五〇代男性、ラフなTシャツとジーンズの三〇代男性、三〇代から五〇代の男女四人組など。ハイボール三杯とモツ焼七本で、一九六〇円。こんな店にちょっと寄って帰るというのは、いかにも新宿という感じでよろしい。さて、帰って飲み直そう。