橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

浅草橋「むつみ屋」

classingkenji2007-07-01

浅草橋の東口の近く、銀杏岡八幡神社の斜め向かいにあるこの店、どこにも紹介されたのを見たことがないのだが、けっこう名店だと思う。なにより、雰囲気がいい。写真の店構えを見ただけで「おっ」と惹かれる人もいるのではないか。間口が広く、入って右側にはカウンター。左側には大小のテーブルが並び、四人掛けはグループ席、大きいのは相席と、融通が利く。地下にも席があるが、こちらは行ったことがない。ビールは大瓶が五一〇円、大生七五〇円、中生六〇〇円、酎ハイは三四〇円、生レモンハイは三九〇円。典型的な酒肴が揃っており、マグロぬた三七〇円、マグロぶつ五八〇円、しめ鯖三七〇円、板わさ三二〇円などと手頃な値段。焼き鳥と焼きとんもあり、一本一一〇円。
場所柄もありサラリーマンが多いが、下町ご隠居さん風もいる。スーツにネクタイ姿は、五〇代男性、四〇代男性、五〇代の二人組、五〇代と六〇代の二人組。カジュアルシャツにパナマ帽をかぶった六〇代男性が一緒に飲んでいる、カジュアルな三〇代男性は、息子だろうか。ドレスシャツとカジュアルの五〇代男性二人組は地元の自営業者か。ドレスシャツの五〇代男性二人と通勤着の三〇代女性は、クールビズの会社員か。
この店に入ったのは、おそらく五年ぶりぐらいだろう。ちょっと思い出があって、寄り道をしてみた。店はまったく変わっていない。記憶が蘇る。いい店は、思い出を美しくする。(2007.6.25)