橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「きくや」

classingkenji2008-01-18

後期の授業は、今日が最後。これから定期試験と入試で忙しくなるのだが、ゼミの四年生も成績はともかく全員卒業できそうなので、一安心といったところだ。こうなると、ちょっと寄り道をしたい。向かったのは、新宿のやきとり横丁である。まずは入ったことのない店に入ってみようと、「K」という店へ。この界隈には、大衆的な外観に反して意外に高い店がいくつかあるのだが、この店は看板に「18時まで生ビール315円、サワー最初の1杯105円」とあったので、ハズレだったとしても損害は大きくないだろうという計算である。案の定、ハズレだった。付け出しにおからが出てきたが、味が十分付いておらず、しかも量が少ない。後で入ってきた金のなさそうな六〇がらみの客が、付け出しを出されたのを見て「付け出しはいくら?」と聞く。店員の答えは「四二〇円」。これで四二〇円とは、いくら何でもひどすぎる。客はあきれて「じゃあ、いいわ」と何も注文せずに帰ってしまった。串焼き(焼きとん類は一〇五円)を四本注文すると、たどたどしい日本語で注文をとった中国人の若い女性が、カウンターの中に入って焼きはじめる。出てきたものは、危惧した通り。焼きすぎで焦げ臭い匂いがあたりに漂う。早々に店を出て、やはり安心できる「きくや」へ。最近は下高井戸店へ行くことが多くなっているので、こちらは久しぶりだ。ハイボールが、相変わらずほっとする味で旨い。付け出しは、まぐろぶつを霜降りにしてポン酢をかけたもので、大変美味しい。カシラ、シロ、アブラ、オッパイの四本をたれでいただく。それぞれ素材の味がくっきり感じられるのがうれしい。こういう経験をすると、つい保守的になって、行きつけの店しか行かなくなってしまいそうだ。(2008.1.11)