橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「なんで・や」

classingkenji2008-01-17

私には信心というものがないので、わざわざ元旦の朝に初詣に出かけたりはしない。しかしずっと家にいるのもつまらないし、正月も三日になると人出も少なくなるだろう。というわけで、近くの松陰神社に行くことにする。自転車で行くのにちょうどいい距離なのだが、寒いし風邪気味なので用心し、小田急線で豪徳寺まで行って世田谷線に乗り換える。ただでさえのどかな世田谷線だが、正月だけあっていっそうゆるやかな空気が流れている。松陰神社前という駅で降りると、神社はすぐそば。ここは吉田松陰を祀っていることで知られる。吉田松陰は嫌いではないから、何十年ぶりかで柏手を打ち、賽銭を投げることにした。さて、その後どうするか。近くの商店街はあらかた閉まっている。そこで世田谷線を逆方向に乗り、終点の下高井戸へ。期待した通り、居酒屋が開いている。とくに年末年始、満たすことのできなかった焼きとん欲求を満たすのに最適な「なんで・や」が開いていたのはありがたい。写真は「なんで・や」の入る雑居ビルの看板だが、実は正確に言うと雑居ではない。というのは、これらの店はすべてティーケーエス・グループの経営で、この建物自体が本社ビルだからである。最近の飲食店チェーンでは、このように多様な業態を展開するのがトレンドのようである。二人で生ビールを三杯、ホッピーセット二つに中焼酎一つ、串焼き一〇本ほどで、三六〇〇円。こうして無事、初焼きとん・初居酒屋の儀式を済ませたのだった。(2008.1.3)