橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

銀座「樽平」

classingkenji2007-06-10

金春通りから細い路地に入ったところにある一軒家。隠れ家のような店である。酒は、店名の通り山形の樽平酒造の「樽平」「住吉」、そして「雪むかえ」。一階はカウンターと大小のテーブル、二階には座敷がある。私が「住吉」を知ったのは、二〇代の中頃だった。近所の酒屋が地酒を扱い始め、二〇種類ほど並んだなかにあったのを見つけ、すっかり気に入ってしまった。その後、一時期まで私は「日本酒マニア」といっていいくらい日本酒に凝り出すのだが、そのきっかけになった酒である。あとで知ったのだが、ほぼ同じ時期に「美味しんぼ」でも取り上げられ、全国的にも知られるようになった。その頃からこの店の存在は知っていたが、なにしろ銀座の真ん中。貧乏学生でもあり、なかなか入ることができなかった。初めて入ったのは、就職した頃だっただろうか。それから年に二−三回くらい通っている。
料理は、刺身と山形の郷土料理が中心。今日の刺身は、マグロ、カンパチ、イカ、タコ、青柳など。山形のものは、玉こんにゃく、山菜、とんぶり、晩菊などの漬け物各種、鯉のうま煮など。この店の鯉のうま煮(一二〇〇円)は絶品。漬け物の三品盛(五八〇円)を頼んだら、晩菊、小茄子、たくあん、赤カブなど五種が盛られてきた。住吉辛口純米(二合九〇〇円)との相性は素晴らしい。ビールはサッポロ黒ラベル(中瓶六〇〇円)。料理の値段は、普通の居酒屋よりわずかに高い程度。
こんな店に日本酒好きのお客さんを案内すると、喜ばれること間違いなしである。銀座に詳しいようなふりもできる。金春通りの八丁目に看板が出ているので、さほど分かりにくくはない。(2007.6.8)