橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「レプロット」

classingkenji2007-03-22

二年ほど前、近所に開いた小さなイタリアンの店。テーブルが五つほどで、何とか一四人座れるだろうか。若い夫婦が二人でやっている気さくな店で、リストランテではなく「イタリア食堂」と称する。今日の料理は、ツブ貝と小松菜のガーリックソテー、ホタルイカのトマトソースパスタ、ジャコと菜の花のペペロンチーノ、ふぐ子と春菊のリゾット、フランス産鴨のロースト・リンゴソース、寒プリのソテー・アサリのトマトソースなど。メニューを見ればおわかりのように、旬の素材、日本の素材をうまく使った料理が多い。味は確かで、狭い店がいつも賑わっている。二時間ほどいた間にも、満員であきらめて帰った客が二組。若い二人だけに、時々通う間にも腕が上がっているのが分かる。フロア係を務める奥さんはワインを勉強中で、リーズナブルで美味しいワインを探してきてはメニューに載せる。今日飲んだのは、カストリーナのエトナ・ロッソ。ワインを選ぶ目も、ずいぶん上達してきた。
経堂駅の北口を出て、西方向に五分ほど歩いたところ。経堂はイタリアンの激戦区で、美味しい店が多いが、今いちばんおすすめはここ。ビールを飲み、前菜とパスタだけ食べて帰る五〇代男性も時々見かけるくらいで、居酒屋的な使い方もできる気さくな店である。(2007.3.17)