橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

ちょっと変だよ、大竹さん

大阪大学大竹文雄さんが最近、マスコミに登場することが多くなりました。それも、「格差拡大は高齢化による見せかけの現象だ」という政府見解を支持する立場の代表としてです。とくに最近、格差拡大の事実を否定するのに躍起になっている日本経済新聞には、頻繁に登場しています。
格差拡大をもたらした最大の要因のひとつが、高齢化であることは確かです。しかしこのことと、現実の社会について「格差拡大は見せかけのものだから、問題ない」と論ずることは別です。高齢化によって格差が拡大したということは、豊かな高齢者と貧しい高齢者がともに増えたということであり、生活困難な高齢者が増加しているということです。これは「見せかけ」ではなく、現実に起こっていることです。たとえば低賃金の外国人労働者が増えて貧困問題が深刻になったとき、「これは外国人労働者の増加による見せかけの現象だから問題ない」と言えるでしょうか。ある現象をもたらした要因を学問的に分析するということと、問題があるかないかを論ずることは、別のことなのです。
しかも、大竹さんはこれまでの研究で、格差拡大が高齢化のみによるものだと論じてきたわけではありません。消費の格差が拡大していること、生涯賃金の格差が拡大する可能性があることなども同時に指摘してきたのです。こうした点を無視して、「格差拡大は見せかけだ」という政府や日経の宣伝に利用されていることを、大竹さんはどう考えているのでしょうか。日経に出てくる大竹さんのにこやかな笑顔を見ていると、むしろ積極的に利用されようとしているようにも見えて、心配になってきます。