橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

大塚「麦酒庵」

classingkenji2016-02-28

私はある時期から、大塚へ飲みに行くのは避けるようにしていた。というのはかつて、大塚にはある組織があって、その組長が私と同姓同名(字も同じ)だということが分かったから。しかもこの組織、日本最大と言われる某組織の下部団体だったのだが、数年前に破門されたとのこと。一人で飲みに行くならいいが、人と一緒だったりすると名前を呼ばれる可能性もある。とばっちりを受ける危険がゼロではないので、避けることにしていたのである。しかし、そろそろほとぼりも冷めたころだろうと、今日は出版社との打ち合わせでこの店へ。
完全紹介制で知られる「酒徒庵」の姉妹店だそうだが、こちらは名前の通りクラフトビールをひとつの柱にしていて、最初の注文は原則としてビールということになっている。まずはIPAをいただき、そのあと日本酒に移行する。いただいたのは、西條鶴・無濾過純米、十六代九郎右衛門、かたの桜・全量雄町生原酒、みむろ杉・無濾過生原酒、十朝日生酛改良雄町七〇、風の森・山田錦純米吟醸笊籬採り、など。
品揃えも保存状態も申し分なく、酒の肴も充実している。いい店であることは否定しない。しかし店主が、酒を客に自由に選ばせないのが難点。こちらから指定しても、「それはちょっと」というように口をはさみ、好みを聞いて自分で選ぼうとする。私の酒が決まったところで、連れが「同じものを」というと、「同じものというのはお受けしないようにしている」とか。酒はあくまで嗜好品で、選ぶのもひとつの楽しみ。味を想像しながら、名前やスペックで選び、予想との差を楽しむというのも、ひとつの飲み方だ。もう少し自由にやらせてほしいものである。(2016.2.3)

豊島区北大塚2-27-1 吉松ビル 2F
18:00〜25:00 日・祝15:00〜23:00 月休